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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.11 サキの日記


 イーディス・ウォートンの『エイジ・オブ・イノセンス』を読んだ。

 これから夫婦になろうとしている二人が話している。『いかにもニューヨークの青年が話すようなこと』に『いかにもニューヨークの若い女性が答えそうな言い回し』が返ってくる。今の日本でいう『決まり文句の応酬』の穏やかで優雅なやつ。


 平和なやりとりだけど、

 お互いの存在の本質は見えてこない。

 最後の最後まで『怒鳴り合い』も、表だった対立もなく、『不快なことは話題にしない』まま、表面上にこやかに日々が過ぎる。悲劇は、あくまで当人の心の中だけで進行する。まわりも気づいていながら、口に出さない。

 今の日本にもこういうところ、あると思う。


愛情や『気持ち』だけでは二人の関係は維持できず、社会的な風習、倫理観、家族への影響、自分自身の価値観……オレンスカ夫人は、愛する人の妻に子供が出来たことを知り、身を引いてパリへ去った。それが正しいことだから。どんなに愛情が深かったとしても。




 遠い昔の因習は、今の私たちにもある。


 古い本を読んでると、昔の女性がいかに『女に○○はできない』『女は○○をしてはいけない』のフレーズに縛られていたかわかる。そのほとんどが思い込み、誤解、嘘だとわかっている今でも、私たちは無意識に、時に意識的にそういう『女はしてはいけない』にとらわれてしまう。

 主に恐怖を感じたとき、人に嫌われると感じたときと、そのほうが都合がいいとき。



 畠山や他の男子と接してるとき、私は無意識に『おとなしい女子』みたいな振る舞いをしてたかもしれない。

 思い出すと嫌になる。

 もっと嫌なのは、自覚してる今でも、学校に行って奴らの前に出たら、同じ態度を取ってしまいそうなこと。


 自分が嫌いだ。

 弱い自分が嫌い。

 どうしたら強くなれるんだろう……と思うこと自体が罠なんだろうか。本当は弱いのに強い人のふりをするのは、自分を偽ることだから。

 TEDのブレネー・ブラウンの動画を見た。実は彼女の本も2冊読んだ。もろさをさらけ出すこと……私にはできそうにない、今のところは。

 でも、人の機嫌をうかがってしまいがちな自分に気がつけただけ、マシかも。

 少なくとも今は学校行ってないから畠山にはもう会わなくていい。

 問題は4月からの秋倉高校。

 あかねは『奇人変人だらけ』と言っていた。

 怖い人がいないといいけど。

 既にあかねが変態すぎて脅威だし。

 こないだも変なメールが来てた。近所のおばあさんの作ったおはぎを所長が誉めたせいで、平岸ママが対抗しておはぎを作りすぎて、平岸パパと自分が太ったから仕返しに行くとかなんとか……所長に警告を送ったほうがいいかと思ったら、本人から電話が来た。



 僕はそのおばあさんが誰かも知らないよ。



 あかねはおはぎを持ってきて、所長と助手の写真を撮って帰っていったらしい。漫画のネタを集めたかっただけじゃないかと思ったのでそう言ったら、



 マンガって何!?



 やばいと思いつつ、年末に平岸パパに聞いた同人誌の話をしたら、スマホの向こうから苦痛のうめき声と、カウンターに頭をぶつける音がした。その後ろで『おい、何だ!?どうした!?』という助手らしき声も。そのあと会話にならなかったので私は控えめにお悔やみを述べて通話切った。

 二人ともかわいそうに……。




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