2016.1.11 研究所
ママがぁ、うちのおはぎはトマトばあちゃんのより美味しいからあ、持っていきなさいって。ウフフフフ。
変態・平岸あかねがやってきて、持ってきた木箱をテーブルに置いた。
開けると、綺麗な丸いあんこの塊が4つ、並んで入っていた。
喜んでいる愚かな助手を尻目に、『所長』は今までに何度となく唱えた祈りの言葉を心でなぞった。
神様、どうか、
平岸家の配布リストから僕を外してください。
もしくは、
『うちに持ってこないで!』
と言える勇気をお与え下さい!!
今のところ、神からの返答はない。
泣きそうな久方の様子を察知してか、平岸あかねがニヤニヤしながらこんな説明をつけ足した。
所長が悪いのヨ。うちには来ないくせにトマトばあちゃんの家でおはぎ食べて美味しいとか言うから、喜んだばあちゃんが会う人みんなにその話をして、あの作りすぎババアを刺激しちゃったんじゃない。アタシとパパまで食べさせられて迷惑してるんだから、お詫びにいいネタを返してもらわないと気がすまないワ……ウフフフフ。
久方は今日、3つの真実に出会った。
1. 別人がどこかのばあちゃんの家に勝手に行った。
2.この世に神はいない。
3.でも悪魔はいる。
『ママのおはぎのほうが美味しいと言え』
と脅しに来る。
そのばあさんに電話してごまかしたほうがいいんじゃない?佐加の『双子の兄』って誤解は使えると思うけど。同じ顔の兄貴と間違えられて困ってるって言いふらしてもらえば?
あかねが二人の写真(主に馬鹿みたいにニヤニヤしながらおはぎを食っている助手)を『ネタに』撮り、軽い足取りで帰った後、助手は平然とそう言いながら最後の一個を飲み込んだ。久方はぐったりとテーブルに倒れたままもう長いこと動いていなかった。そのおばあさんが誰かは全く知らないが、平岸のあの奥さんを刺激するのはまずい。変態悪魔の『ママが作りすぎちゃったのォ』攻撃が激しくなってしまう。しかも平岸家には、4月に早紀も来るのに……。
なんで僕が変態に仕返しされなきゃいけないわけ?
助手はそのつぶやきに、
食いもん持ってきてくれんだから別にいいじゃん。
という、何の役にも立たない台詞を返して、二階に行ってしまった。狂ったようなワルトシュタインが天井から降ってきたが、久方はしばらく動く気力を取り戻せず、頭に刺さる音符をもろに浴びていた。




