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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.10 松井カフェ



 つまりね、あの陽気な方は、幽霊なんですって。離れ方がわからなくて困ってるんですって。



 松井カフェには今、平岸パパしかいないので、マスターはクリスマスに聞いた『猫に嫌われてるほうの久方』の話をしていた。かなり熱心に。

 もうずっと、この話を誰かにしたくてたまらなかったのだが、平岸パパと二人になる機会がなかったし、他の人(久方も含めて)に話していい内容とも思えなかった。



 ありとあらゆるお祓いに連れて行かれたけど、どれも効かなかったんですって。だから仕方なくたまに体を借りて出歩いてるって。まぁー驚いたわあ。信じていいのかしらこんな話。


 

 普通なら信じられんけど、俺は本人と話してるからね。



 平岸パパは別なことを心配していた。4月から下宿する新しい生徒、新橋早紀のことだ。久方と仲が良く、年末年始も毎日のように遊びに行っていた。男のところに一人で遊びに行くのは危ないと言っても、あの『小さな所長』だから大丈夫と言われるとなぜか納得してしまう。しかしあそこには怪しげな助手がいるし、さらに本人にそんな話があると……。



 幽霊話が嘘かほんとかより、子供をつきあわせて大丈夫かが心配だなぁ。ナミちゃんや美月ちゃんもあそこに出入りしてるしなあ。



 平岸パパは、町内の学生の動きを把握している。

 下宿生が多かったから、観察や情報収集が癖になっていて、今でも抜けない。

 マスターは真顔で聞いた。



 今度来る子と仲がいいのはどっち?



 サキちゃんと仲がいいのは礼儀正しい方だと思うな。美月ちゃんは何か言ってた?



 佐加美月は、マスターや他の生徒に会いに、よくカフェに現れる。



 あら、まずいわあ。美月ちゃんが話してたのは陽気な方。『おっさん』って呼んでたし、与儀さんの家にもよく来て、あさみさんとも仲良くしてるんですってよ。



 平岸パパはクッキーを喉につまらせ、盛大にむせた。



 大丈夫ですよ。雪かきして帰るだけって言ってましたから。いくら幽霊でも病気の人は襲わないでしょうよ。あさみさんが相手にするタイプでもないし。でも悪い人じゃなさそうよ?名前だけは何度聞いても教えてくれないけど。『ない』の一点張りで。



 むせた喉が回復した頃、他の客がぞろぞろと現れた。秋倉高校の3年生たちだ。受験直前にみんなで集まる計画を立てていたらしい。就職がすでに決まった面々も混じっていた。そのうち何人かは、平岸パパのハゲ頭を見た瞬間『眩しいっ!!』『目が!』と言いながら両手で目を防御し、後ろに飛びのいた。

 平岸パパは学生と互いにからかい合いながら楽しい時間を過ごした。こんな歳になって若いのと仲良く話せるのは本当に有難いことだ。元気が出る。

 しかし、今日は気になることがあって、みんなで楽しく騒いでいる間も、懸念が絶えず頭の片隅から離れなかった。



 母親はともかく、ナミちゃんは、

 自称『幽霊』と一緒に過ごして大丈夫なんだろうか。


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