2016.1.3 ヨギナミの家
ヨギナミが、ごはんを炊こうかうどんを煮ようか迷い始めた夕方、誰かが訪ねてきた。
玄関に、大きな風呂敷包みを持った平岸ママが立っていた。寒さのせいか、単に機嫌がいいのか、頬をうっすらとばら色に染めてにこにこと笑っている。
あ、今日3日だった。
ヨギナミは急に思い出した。毎年、3日頃になると『作りすぎ風呂敷』が平岸家から来るのだ。夫婦揃ってのときもあるし、片方だけのこともある。今年はママ一人らしい。
私が精魂込めてつくったものにあの子らは文句ばかり言って、しまいにはよそで飯を食いたいと。
けしからん!!
新年の挨拶のあと、平岸ママはコミカルに怒りながら家に入り、与儀あさみに、今日は顔色がよろしいと偉そうな、かつ友人らしい嘘をついた。ヨギナミの母は昨日から微熱が出て咳が止まらず、今日の昼になって少しおさまったところだった。平岸ママは、明日病院に付き添ってやろうと言い張り、遠慮するあさみの言葉は無視して、さあ食え、これも味わってみろと重箱の中身を母娘に押しつけた。ヨギナミは中身のうち、気に入ったもののレシピを聞いてメモした。あんたが作っても同じ味にならないしょと母が嫌みを言ったが、
じゃあ、あさみがまず作ってごらんなさい。
私が教えてあげます!
と平岸ママに言われて黙り込んだ。ヨギナミは、こんな母親が自分にいたらなあと思ったが、もちろん口には出さなかった。
友人二人は楽しく世の中や病気や家族について愚痴りまくり、話し疲れたあさみが横になると、平岸ママは毎年の恒例となった冷蔵庫チェックを行い、
中身がない!!
こんなからっぽで電源入れてる意味ないじゃないの!
と、去年と同じ文句を言いながら帰る支度をし、料理の勉強がしたくなったら『あかねがいないときに』うちにいらっしゃいと言い残して、9時頃に帰っていった。明日には『冷蔵庫に入れろ』という食品の小包が届くに違いない。あかねがいないときに来いというのもポイントだ。表面上愛想がよくても、あかねや、町の噂好きの人たちが自分達をどうけなしているか、ヨギナミはちゃんとわかっている。
食べきれない分を冷蔵庫に入れて戻ったとき、母親の呟きが聞こえた。
私は食べられないから。
あのちっちゃいおっさんにあげられたらいいのにね。
でも、男ってのはね、
用意してる時に限って来ないもんなんだわ。
なんにもないときには突然来るくせに。
ちっちゃいおっさん……ヨギナミはしばし考えこみ、あの、目付きの悪い小柄な男を急に思い出した。おっさんはあんまりじゃないかと言ったら、
あら、言い出したのは私じゃなくて美月ちゃんでしょ?あの態度は完璧におっさんよ。本人だってそう扱って欲しいからあんな話し方してんのよ。
子供扱いした瞬間に機嫌悪くなりそう。
ヨギナミは背を向けて横になっている母親におやすみを言い、キッチンの机に向かって宿題の残りを片づけながら、残った煮物はあと何日保存できるだろうかと考えていた。平岸ママに聞いておくべきだった。しょっちゅう作りすぎているから、きっと保存に関してもプロ級だろう。




