2015.8.30 サキの日記
ある人々にとって、
人生は無意味なものだ。
むごい真実でも、それを知っている、理解しているということが慰めになる。そうだといいと思っている。
平岸パパが空港まで送ってくれ、お土産も買ってくれた。渡す人はほとんどいない。劇団の人と、ほか数人。
一人で飛行機に乗るのはこれが2回目。一回目より慣れてきたけど、やっぱり自分が乗ると途中で落ちそうな気がする。
所長からはメールが来ない。
体調が悪いのだろうか。助手と何があったのだろうか。あかねの妄想みたいなことにはなってないと思うけど。
単にもう会うことはないと思ってるのかもしれない。夏の間だけ遊びに来てただけだと。
無理はないけど、ちょっと寂しい。
飛行機はなんの問題もなく着陸し、
一人でタクシーに乗ってマンションまで帰った。
バカは迎えに来たがっていたが、目立つのが嫌なので来たら殺すと言っておいた。一人になりたかった。誰かに『いままで』と『これから』を聞かれる前に、考える時間が必要だった。
自分の部屋は落ち着く。
だけど、本来の居場所ではないような気もした。
ベッドに寝転がってボーッとしたあと、思いつきで所長と平岸パパ(帰りに連絡先を貰った)に『無事に着きました』メールを送った。パパにはLINEを聞かれたけど、だいぶ前に止めたと言ったら意外そうな顔をしていた。
ついさっきまでいた秋倉が、今はもう遠い別世界のようだ。空と草しかない景色、平岸家、研究所、駅前のカフェとネコ……。
家の電話が鳴った。バカならスマホに来るはずだ。見ると、母の携帯の番号だった。
私は、もう学校には行かないと言った。




