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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.31 ヨギナミの家


 バイトの帰り道、ヨギナミは考えていた。今読んでいる本には、猫がメス猫に会いに行くシーンがある。女猫と話すと心が安らぐらしい。大して中身のある話をしているようには書かれていないのに。



 それって、人間の男もそうなのかな。



 レストランの常連客にも、ヨギナミを見ると喜んで話しかけてくるサラリーマンや長距離運転手がいる。母のところにも、不快な男が来る。そういえば、藤木がわざわざ浜ではなく秋倉の学校に来たのも、問題を起こして転校した佐加のためだとみんなが噂している。保坂はあの毒舌のスマコンと昔から一緒に行動しているが、そこに色気は見られない。女子は女子同士で話す方が安心するし、本音も出しやすいと思うが、それとは違うのか。



 杉浦もそうなんだろうか。

 いつもスマコンや伝説の図書委員長とケンカしてるけど。



 本を返すときに聞いてみようかなと思いながら家に近づくと、電気がついている。

 おかしい、母はもう寝ているはずだ。

 またあの嫌な男が来たのだろうか?こんな日に自分の家庭を無視して。


 ヨギナミは一瞬、この世で一番嫌いな男の顔を想像したが、すぐに、来ているのは別な人だと気づいた。


 家のまわりが、きれいに除雪されていたからだ。

 あの男がそんなことをするわけがない。人の助けになるようなことを、今まで一度だってしてくれたことはない。


 ヨギナミが小窓に近づくと、母の笑い声がした。

 いや、本当に母だろうか?

 こんな陽気な笑い方をする人ではないはずだが……。


 中にいたのは、例の久方(じゃない方の人)だった。

 何かを勢いよく話している。母は人が変わったように笑い続けている。



 おう、今日もバイトか?

 年末くらい休めよ。



 ヨギナミが中に入ると、目付きの悪い男が、快活に笑いかけてきた。



 いま、バカな助手の話を聞いてたの。ふふふ。



 母は笑いがおさまらないようだ。

 ヨギナミがキッチンに行くと、茹でたそばがザルに乗っていて、鍋にめんつゆが入っていた。



 のびてても文句言うなよ。黙って食え。



 変な人は、ヨギナミにそれだけ言うと、母に、じゃあよい年を、と軽く言って出ていった。



 ヨギナミは何が何だかわからないまま、そばをめんつゆに放り込んで温めて食べた。さっきまで考えていた本の内容を思い出しながら。



 きっと、女の人と話したい気分だったんだ。

 何かあったのかも。



 母は話し相手がいなくなって残念そうに見えた。助手の話って何と聞いたら、




 体格のごつい男のくせに虫が嫌いで、部屋に小さなクモが出たくらいで、女の子みたいにキャーキャー叫びながら走って外に逃げるんだって!!

 しかもそのあと消毒液とモップを建物じゅうに……。



 母は楽しそうだったが、ヨギナミにはあまり興味のわかない話だった。それより、今出ていった人が何なのかが知りたい。クリスマスに聞いた話だと……古本屋の少年?



 そんなことをしているうちに、0時を過ぎていた。ヨギナミも寝ることにした。新年といっても特にやることはない。餅を焼いてお雑煮にするくらいだ。



 何人ぶん作ればいいのかな?



 ヨギナミは少しだけ悩んだが、もとからギリギリ二人ぶんしか買ってないことを思い出して、ばかばかしくなってすぐ眠ってしまった。

 よその男に餅をやる余裕など、我が家にはない。




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