2015.12.27 サキの日記
朝から大雪で、しかも最高気温までマイナスの真冬日。寒さは予想を越えていた。今日は出かけないほうがいいなと平岸パパは言っていた。でもやることはないし、昼過ぎに雪がやんで晴れてるように見えたから、出かけてみることにした。
あっさり道に迷った。
研究所に行く道は覚えていたはずなのに。
雪原の真ん中で困ってたら、フワフワした帽子に白いコートの女の子が歩いてきた。所長を知っているらしく、林が目印だと教えてもらった。この町では、冬に道に迷うと、本当に怖いことになるらしい。
所長は、元気そうだった。
やっぱり白衣を着てた。
久しぶりに会っていろんな話をしたけど、一番驚いたのは、よく見る夢の話をしたときだった。
あの、女子高生が小さな男の子と一緒に走って逃げている夢。
その小さな男の子は、僕だ。
所長がそう言い出した。
私と同じ夢をよく見ていたらしい。細かくいろいろ聞かれたし私も聞き返したけど、川岸だったりエレベーターで追いつめられたり、二人の服装だったり、そういう細かいところまでみんな同じだった。
それだけでも不思議なのに、所長はあの夢は『実際に起きたことだ』と確信しているそうだ。
でも、何から逃げてるかは覚えていないし、
女の子が誰かも知らないそうだ。
なんで私が所長の小さい頃の夢を見てるんだろう?
所長と初めて会ったのは去年の夏だし、それ以前に会った記憶もない。
今日わかったのは、所長の育ての親が神戸にいること(出されたお菓子が神戸土産だった)、所長は養子で、引き取られる前のことを覚えていないということ。わかっているのは、札幌にいたらしいということと、親が自分を置いてどこかに行ってしまったということだけ。
あの女の子が見つかれば、わかるかもしれないね。
でも、探しようがない。
似たような制服も、川辺も、日本中にある。たぶん札幌だけでもかなりあるだろう。
神戸に住んでたの?と聞いたら、
少しだけ。
あまり記憶にない。
話したくないみたいだった。そういえば、神戸は関西のはずなのに、所長はいつも、全くなまりのない標準語で話してるし、自分の話はしたがらない。夢のこと以外は。だから、今度同じ夢を見たら報告し合うことにして、あとはお土産に持ってった本とか、カントクやバカの話をした。
噂の助手は休暇で、またいなかった。
ちょっと残念な気もする。
しかも、所長は正月も帰省しないで、この町で過ごすらしい。何があったんだろう?
帰り、また吹雪いててかなり焦った。所長は『危ないから泊まっていけば』と、何でもないことのように言ったけど、さすがにそれはまずいと思った。
ちょうどいいタイミングで平岸ママから電話があり、パパが車で向えに来てくれてると知った。林を抜けたところに、車が来ていた。
大げさだと思うかも知れないけどね、今日みたいな日は雪が弱まっても気をつけたほうがいいよ。またすぐ降りだして、大雪で車ごと雪にはまる可能性もあるから。
歩いてすぐの場所ですら、猛吹雪の日は危ないという。視界が真っ白になって方向がわからなくなり、そのまま間違った方向に行って遭難してしまうことがあるから。
北国の冬は不自由だ。
本当にここで生活していけるんだろうか?
平岸家についたときには雪は弱まっていた。室内照明を受けて芸術的に光輝くハゲ頭を撮影し、所長に送信したあと、健康的なサンマ定食をいただき、部屋に戻って少しだけ英語の勉強をした。でも、風の音と、さっき所長に聞いた夢の話が気になって、集中できない。
夢に出てきた少年が所長なら、
やっぱりあの女の子も実在の人のはず。
そして、逃げなくてはいけない怖いものも。
なぜ逃げてたんだろう?
あの子はどこにいるんだろう?
明日、秋倉高校に面談に行くからちゃんと寝ておきたいのに、夢の話は気になるし、先生に会うから緊張するし、また吹雪いたらそもそも学校まで行けないんじゃないかとか……いろんなことを考えてしまって、やっぱり眠れなさそう。




