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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.26 サキの日記

 三回目の一人飛行機。

 北海道は寒気のため天候が悪く、『着陸できなかったら引き返すかも』と言われつつ、私の乗った便は雪の中を到着。実は機内の通販カタログに載ってるかわいいものを見て、本気で買おうかどうか悩んだ。やばいやばい。旅先だと余計なものを買う人が多いって前に誰かが言ってたし。観光地にはやたらにパワーストーンとか縁起物があるし(しかも、その土地に本当に関係あるかは疑わしい。要するに『旅先で出会った石』というだけで特別な感じがしてしまうんだろう)。


 平岸パパは空港まで迎えに来ると言ってくれたけど、車窓から雪景色を見たくてJRに乗った。雪は降り続き、建物も車も道も積もった雪で真っ白。景色が、まるで別世界。風雪で遅れて走る車窓から写真撮りまくったけど、動いてたからあまり上手く写らなかった。

 秋倉に着くと雪は弱まり、光輝く頭が看板近くでにこやかに待っていた。町の位置を全く示していない案内板(北海道の絵があって、中心に大きな丸と『このへん』という文字が大雑把に書かれている。冗談なのだろうか)を見たあと、車で平岸家に向かった。


 アパートの部屋は前と同じ。ただ、シーツと毛布と羽根布団が淡い紫色のものに替わり、デスクの上に暖房の説明書があった。寒いからすぐにつけてみた。スイッチを入れてから温かい風が来るまで数分かかるようだ。

 荷物から日記とペンを取り出してデスクに置き、持参したドリップコーヒーをキッチンに置いた。食事は平岸家だから、私の滞在準備はこれで終わり。本も何冊かスマホに入れといた。暇なとき用に。あとは、明日東京土産とお勧め本(こっちは紙)を所長に渡すだけ。

 夏は体調悪かったから、お別れも言えずに帰ってしまった。とりあえず『平岸家に着いた』メールを送った。


 平岸家は新年の飾りや料理の匂いに満ちていた。ここが神社なのかと思うくらい大きく玄関を囲んでいるしめ飾り。玄関には華麗なフラワーアレンジと、バスケットボールを潰したような大きさの鏡餅プラスチックではなさそうだ。平岸ママは年中行事にはりきるタイプらしい。あかねはそんな母親とは合わないらしく、私に会うなりこんなことをぼやいた。



 伝説の図書委員長のママは、こういう行事が嫌いで料理もめんどくさいから嫌がるらしいワ。町の奥様がたも『年末は自分ばかり料理させられて憂鬱』ってぼやいてんのヨ。それが普通じゃない?あたしもうちのママみたいになるのは嫌。



 散々言われてるママは、重箱を、なぜか3つ並べていた。作る気満々だ。



 どの箱がいいか選んでるの。サキちゃんはどれがいい?



 中身が入ってれば何でもいいです、とはもちろん言えず、かといってどれがどう違うのかよくわからず(どれも赤と黒に金色の何かが描いてある)てきとうに真ん中を選んだ。



 じゃ、これにしますか!



 平岸ママは満足してるように見えたけど、私はなんか不安になった。いいのかこの選択で、みたいな。



 夕飯は、おせちとは関係ないカツカレーだった。

 あかねは太ると文句を言っていたけど、私は2杯食った。遠慮するには美味しすぎた。おかわりにもちゃんとカツが乗っていた。私が大食いだということを、平岸ママはちゃんと覚えていたらしい。なんだかすごく贅沢。


 テレビの間で、平岸夫婦と一緒に特番を見た。あかねは同人誌の執筆に忙しいため現れず。年明けにイベントでいろいろ販売するらしいけど、



 中身は見ないほうが身のためだよ。



 平岸パパがそう言ってため息をついた。



 こないだちらっと見たんだけどさ、どうもあのキャラクターは、久方さんと助手がモデルのような気がするな。あんなの本人に見られたら訴えられちゃうよ。俺はほんと、うっかり読んでから頭が痛くて痛くて。



 平岸パパは苦々しい顔で、ハゲ頭をピシャピシャ叩いた。あかねの妄想の傾向から、なんとなく内容は想像ついた。それって真面目に法律に引っ掛かりそうな気がするけど……とりあえず、所長には絶対に秘密にしよう。



 明日研究所へ行くので、今日は早く寝ることにした。眠れるか心配だけど。あと天気も。予報はさかんに『寒気が来る』と叫んでる。吹雪になったら全く外を歩けなくなるらしいし。




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