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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.24-2 研究所

 劇団の酔っ払いをどつきまわして家まで送ったんでスヨ。私が!タクシーで!!バカが運転してきたくせに酒飲んで酔ったせいで!!若手の奥さんが出迎えたとき私とバカを見て『プッ』て吹いてまシタ。『ずいぶん早いお帰りですね』とか。バカがそこでまた『だって未成年の娘を夜中につれまわせないよぉ』だの今さらぬかしやがったんでスヨ!!だったら昼の3時から飲むな!!蹴ってやりまシタ。

 バカは今マンションの入口で爆睡してまス。放置でス。



 新橋早紀も、とんだクリスマスだったらしい。こちらに比べればはるかに楽しそうではあるが。



 所長、今日は家族とか彼女は一緒にいないのでスカ?



 どっちもいないよ。と久方は答えた。親の説明はしないことにした。話がややこしくなるし、昔のことは話したくないからだ。まして恋人のことなんか……。



 悲しいことに、あのハチャメチャ人間の助手と二人きりで、平岸さんの噂の標的にされてるよ。

 でも、珍しくあいつも今はピアノは弾かないで、静かな曲をかけてるよ。メリー・リトル・クリスマスとか。



『私たちは再び出会うだろう

もし運命が許すならば……』



 夏に古い映画を一緒に見たときに、二人ともこの歌を知っていることを確認していた。明るいだけのクリスマスソングと違って、少し悲しげなのがいい。かすかに希望があるのも。たとえ、ほんのわずかであっても。

 朝音痴がクリスマスソングを歌っていたことも急に思い出したので、それも早紀に話した。



 悲しい助手ですネ。



 自分達のことは棚にあげて、二人で爆笑していた。



 早紀は明日来道するという。平岸家に着くのは夕方だから、ここには明後日に来る。今から楽しみだ。



 所長、クリスマスとかお正月、さみしくないでスカ?



 早紀はこういう質問を平気でする。久方は考える。いつもなら『一人のほうが楽でいいです』と答えるだろう。



 寂しいよ。



 でも今日はこう答えた。



 平岸さんもそうだけど、たいていの人は、家族か恋人と一緒にいる日だからね。たぶん世界中が。もちろん、僕みたいに一人が当たり前になってる人もたくさんいるだろうけど。



 早紀が相手だと、何をごまかしてもバレてしまうような気がする。似ているから。はっきりと考えを口に出せるところを除いては。



 私も寂しいでスよ。



 さっきまで『劇団員のオッサン』をどついていた人とは思えない発言だ。



 バカはともかく、お母さんがいないんでス。どこにいるかもわかりまセン。彼氏もいないし。



 前に『誕生日を避ける』と言っていた母親は、クリスマスも行方不明になるらしい。



 たぶん、私が秋倉についた頃に、遅れて小包が来るんでス。受けとりたくないでスね。






 なぜだろう。

 なぜそうなんだろう?



 久方は軽いめまいを覚えた。



 まずい、また来るかも。



 と思ったとき、早紀がいきなり甲高い声で、



 バカが床を這ってまス!!



 と叫んだ。薄れかけた意識が一瞬で戻った。



 バカがドジョウみたいに両手を頭の上に合わせて床をクネクネしてまス!キモいでス!!ウケ狙いにしても笑えまセ……ギャアアアア!!




 耳をつんざくような悲鳴とともに、通話は切れた。変人の父親とはベタベタに仲がいいようだ。



 なんだかんだ言って、愛されてるな。



 部屋は再び静かになった。上からかすかに音楽が聞こえるが、それがかえって一階の暗い部屋の静寂を増しているようだ。

 久方はしばらく、その静けさと同化していた。自分の存在を忘れるように。

 でも、そのうち我に返って立ち上がり、食器を片づけて部屋に戻ると、倒れ込むようにして眠ってしまった。外から見てほとんど動いてなくても、頭の中では色々なことを一日中思い出したり考えたりし続けていたので、ひどく疲れていた。





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