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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.24 大通公園


 イルミネーションと雑踏の間、無数の人と幻想が交差する空間に、その人物はいた。ロングコートのフードを深くかぶり、マスクをして、娘のクローゼットから盗んだチェックのマフラーで、肩全体を覆っている。

 電飾は毎年派手になっていく。昔は決まりきった形や色で、いかにも地元らしいものだったが、ここ数年は変わってきた。それでも、東京や大阪のような華々しさはない。綺麗でも、あくまでどこか、穏やかだ。



 クリスマスとイルミネーションを楽しむ人々は、

 彼女、二宮由希の存在に気づかない。


 実際、そこにいるのは女優ではなく、

 ただの孤独な女だった。


 彼女は毎年ここにいるのだが、気がつく人間は一人しかいない。






 バカピョーン♪



 間抜けなお知らせ音声がして、近くを歩いていたカップルが笑いながら通りすぎた。由希はスマホを取り出した。



 明日の昼には千歳に着くピョーン。



 夫のバカ、いや、新橋からだった。

 由希の表情はわからない。マスクとマフラーに隠されているからだ。

 彼女は孤独である。ほぼ一生涯をそうやって、遠くから眺めるように過ごしてきた。なぜなら、人生は過酷で、彼女が近づいて何かを求めようとするたびに、手酷いやりかたで大切なものを根こそぎ奪っていったから。



 早紀だピョーン。

 俺の焼き鳥全部食われたピョーン。



 早紀は写真の中で、照明のさわのんとふざけている。手には焼き鳥の串。ずいぶんたくさん握っている。あの子は生まれたときから肉ばかりよく食べる。


 由希は今日初めて笑った。

 早紀が新橋に似ていて本当に良かった。あの馬鹿馬鹿しいほどのエネルギーと生命力を、娘は完全に受け継いでいる。二人がはしゃいでいるのを見るのが、由希の唯一の楽しみだ。新橋のメチャクチャぶりは高校時代から代わらない。娘は会うたびに、出会った頃の夫に近づいていく。顔つきも、性格も。由希はそれを確認するたびに安心する。


 自分に似たら、不幸が約束されたようなものだからだ。



 由希は電飾の彼方、テレビ塔の方をぼんやりと眺めながら明日のことを考えていた。25日は毎年、娘にも義理の両親にも内緒で二人で過ごすのだ。



 女は歩き出した。クリスマス市に向かって。


 娘と一緒に、怖がらずに過ごせる日はいつ来るのだろう?

 由希にはわからない。

 でも、

 今の彼女は少なくとも、

 一人ぼっちでは、ない。




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