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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.23 札幌市内



 あいつもう限界だわ。

 そっちはどう?



 岩保悠人はぽっつー(ポット君2)にパーツを渡しながら、ずれたヘットセットを手で押さえた。

ロボットにロボットを組み立てさせるという試みの最中だ。部屋にはパソコンが並び、パーツや基盤、工具類が床に散らばっている。



 奥さんとはやりとりしてるけど、向こうはなんか微妙な反応してるらしいよ。難しいと思うな。



 自他共に認めるリア充、槙田利数はいつも軽妙な口調だ。

 二人は久方の数少ない『味方』である。別人ではなく、『久方創』本人と親しい。

 二人とも久方から、なぜ彼女との関係が駄目になったか聞いてはいたが、内容に納得していなかった。久方がそんなことをするとは思えない。いや、『できるわけがない』としか言いようがない。何か誤解があるに違いない。あるいは、あの別人の仕業かもしれない。



 そもそもなんであんなのがいいんだかわかんないね。日本にもっとまともな女いると思うけど。



 疑問を発する槙田に、岩保は重みのある声で言った。



 日本の『まともな』打算的な女が、真剣に、あの久方を男として見てくれる確率は?計算してみろ。



 槙田はしばしの沈黙の後、こう答えた。



 ゼロだね。

 遊ばれて捨てられる可能性なら70%かな。

 顔はかわいいって奥さんも言ってたからね。

 本人はあんなに真剣に生きてんのに、見た目で軽く扱われてるからなあ。

 理不尽だな。



 二人とも黙り込んだ。

 もし久方が『一人でも平気だ』と、強がりでも言えるタイプだったら、二人ともこんな心配はしない。実は揃って、おせっかいや余計なお世話はヘドが出るほど嫌いだ。なのにあの久方創の話になると……。



 さっき来た。本人が、ポット君のことを聞きに。

 ロボットが怯えるのはなんか意味あるのって聞かれてビックリした。僕はそんなことプログラムした覚えはない。持ち主に似るようにはしてるから、すぐ怯えるおまえを見て学習したんだろって言ったら、ものすごく嫌そうな顔をしてた。



 笑う岩保に、槙田はおいおいおいと弱った声を上げた。



 そんなことはっきり言うなって!



 岩保はあくまでこう言い張る。



 本当にそうなんだからしょうがないよ。うちのぽっつーだって怯えたりなんかしない。恐怖は学習するものだということが証明されただけ。

 問題のポット君の持ち主は、あいかわらず青空だの雲だの雪だの、いい年してそんなことにだけ目が輝いてる。

 そんな話普通にする知り合い、他にいるか?



 槙田は計算するまでもなくこう答えた。



 いるわけないだろ。



 そのあとにこう続けた。



 でも、いやあ……俺思うんだけどさ、久方が空や雲の話ができなくなるくらい病むような世の中になったら、そんなとこにうちのかわいい娘を送り出したくないんだよね。なんていうかなあ……お前には子供いないからわからないかもしれないけどさあ。



 最後の一言が余計だが、岩保はあくまで本音だけで答えた。



 わかるよ。

 本当によくわかる。



 槙田は『うちの打算的な奥さんと会議しなきゃ』と言って通話を終えた。

 岩保は、自分に似たロボットを組み立てているぽっつーの動きを記録しながら、風変わりな友人の行く末を案じていた。

 それにしても女たちときたら、なぜ自分や久方のような人間を理解せずに、世間が叫ぶ価値観にばかり惑わされるのだろう?あの槙田に奥さんがいること自体、岩保には理不尽に思えた。かといって、久方に彼女がいるところも想像しづらい。おとぎ話の中で一人でいるほうが絵になる。見た目だけでなく心も少年のままだ。

 でも本人は、そんな評価が嫌なのだろう。

 何年もかけたかっこいい等身大のロボより、思いつきで作った間抜けな寸胴のポット君のほうがウケがよかった。外見というのは人が思うよりずっと重要で、かつ厄介な要素だと、岩保は最近のまわりの評価を思い出し、一人ため息をついた。




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