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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.18 サキの日記


 夜珍しく寝てたのに。

 ガタガタと窓辺で音がしたから起きてしまった。まだ5時台だった。ロビン・シャーマが起床を推進してる時間。早起きの人にとっては貴重な朝時間。


 私は起き上がれなかった。




 昨日、雪が降っていた。

 窓からそれを眺めていたら、インターホンが鳴った。


 画面に、畠山とノノバンが映っていた。


 私は二人のニヤケ顔を見た瞬間に、反射で画面を消した。


 また鳴ったので、ブレーカー落とした。


 玄関と、全ての部屋の窓の戸締まりを確認した。バカに電話したが出なかった。布団に隠れて、震えが止まるのを待っていたけど、なかなかおさまらない。侵入されたらなにをされるかわからない上に、犯行の模様までネット中継されかねない。誰が住所を教えたんだろう?またあの先生の仕業だろうか?それとも、他の誰かが漏らした?知り合いを一通り思い出してみたが、前の学校は表向きはプライバシー重視で、連絡網も住所録も作らないし、私も誰にも教えてないはずだ。近所の人かもしれない。あそこに新橋バカが住んでますよとか、無邪気に教えちゃうおばさんでもいたのかも。相手が悪魔だとも知らず。


 落ち着いて部屋から出られるまで、時間がかかった。


 暗くなっていた。災害用の手回し懐中電灯が常に枕元にあるので、それを手探りで回して、ブレーカー戻しに行った。冷蔵庫の中身を確認したけど、特になんともないみたいだった。

 さすがにもう、インターホンは鳴っていなかった。


 でも、また来たらどうしたらいいんだろう?

 夕飯買いに行こうと思ったけど、まだ外に誰かいるかもしれないと思ったから、出られなかった。



 コーヒーをいれてたら、バカが帰ってきた。私はコーヒーカップを奴に投げつけ、部屋に駆け込んでベッドで大泣き。豚まんの顔見た瞬間に、緊張の糸が切れた。


 怖かった。

 本当に怖かった。


 バカは私が泣き止んで出てくるまで、割れたカップを片づけながら待っていた。落ち着いてから出たら、テレビでしゃべくる芸人を見ながら何かメモしていた。いつものことだ。



 うちにいるのが怖かったら、

 明日、カントクんとこ一緒に行って、泊めてもらえないか頼んでみよう。

 サキに会いたがってるぞぉ?

 それが嫌ならホテルに泊まるか?地元でホテルに行ってみると新たな発見があっていいぞ。俺も札幌のホテルでは意外な奴にばったり会ってなあ、中学の同級生なんだけどさあ、それがなんと、奥さんじゃない女と一緒でなあ……。



 また嘘くさいネタを話し始めた。ホテルなんか行ったらまた遊んでるとか悪意で嘘を言いふらされてしまう。畠山とかノノバンというのはそういうことを平気でする奴らで、しかも親が金持ちで、更にそのうち一人は弁護士だ。きっと、自分の子の犯罪を誤魔化すのが専門に違いない。まず自分の子供に法律守らせろと言いたくなる。




 廊下からガタガタ音がした。怖くてそーっとドアをあけたら、バカが朝ごはんを運んでいただけだった。寝癖で髪が変なカールを描いていて、そんな間抜けな後ろ姿を見たら、なんかすごくほっとした。豚まんはなぜか朝型なのである。ただし夜中にもよく飲みに行ってる。いつ寝てるのか。たぶん仕事中だ。学生時代は学校で寝てたと前に言っていた。たぶんネタだと思う(本当だったら卒業できてないはずだし)。


 トーストには、アボカドのペーストとチーズが乗っていた。コーヒーではなく紅茶が出てきたのが気に入らなかったけど、バカは今日はカフェイン少なめで過ごした方がいいよと言った。だいぶ前から、娘のコーヒー中毒を心配している。しかし私はコーヒーカップを投げつけないと甘えられないほどひねくれているので、注意されるとよけいに飲みたくなる。


 甘ったれすぎるだろうか。

 それとも、甘える前に考えすぎなんだろうか。



 どうでもいいけど、昔のドラマで、怒った女が男に向かってグラスや酒瓶を投げつけるのを見て、あれは怒ってるんじゃなくて、甘えてるんだと私は思った。どうでもいい人間に、人はものを投げない。そこに何らかの想いがあるから余計なことがしたくなる。ただし、大人げない迷惑行為であることに変わりはないけど。



 塾には正直に事情を説明して、昼頃にバカと一緒に家を出ることにした。

 今私は、本を読みながら、時間と不安が行き過ぎるのを待ってる。


 追いつめられたとき、不安になったとき、

 嫌がらずに相手をしてくれる友人は、本だけだ。




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