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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.17 松井カフェ



 うちのが離婚してえとよ。

 この歳になってよ。



 松井カフェのソファー席で、常連の運ちゃんがつぶやいている。



 理由は?



 向かいにいるのは久方、ただし、ねこが毛を総立たせて威嚇し続けているほうである。

 マスターはそんなねこを抱き上げて家の奥に放し、片付けをしながら、常連の二人を見守っている。なぜかは知らないが仲が良い。夕飯を食いに来た運ちゃんは、この小さい人を見つけると、いつも交通や仕事の愚痴、走りながら聴くラジオや歌謡曲(二人とも年代が近いとマスターが感じるのは、この曲の趣味のせいだ)の話を楽しくしているが、今日は様子が違いそうだ。



 知るか。あえて言うなら金だ。ネットビジネスに目覚めたと。前から変だとは思ってた。帰ってもパソコンに釘付け、おとりよせでどっかの名物だかいい肉だかをやたらに届けさせる、妙に高そうな服やアクセサリーが増えてる。デブには似合わねぇやつがな。



 ああ、つまり一人でも暮らせるから別れろってこと?



 本音はそうだろうよ。

 でもあいつはなあ、あくまで!俺が悪いと言い張ってる。帰ってこないのが悪いと。もっと私に構ってくれたらよかったと。



 でもパソコンに夢中なんだよね。



 帰ったって、あっちこそ俺に構う気なんかねえだろうって!マスター、コーヒーもう一杯くれ。ほんとは酒をあおりたいがまだ運転しなきゃいけねえから。



 そんな運ちゃんの顔は元から赤黒く、飲まなくても酒に酔ったように見え、マスターは苦笑いしながらコーヒーを継ぎ足した。優しく聞きながら。



 それで、どうするの?



 運ちゃんは音を立ててコーヒーをすすった。



 どうするも何も、もう出てったぁ。正月はハワイだとよ。夫のために新年に料理するのはもうたくさんだとよ。でもよ、あんなデブが若くて細いビキニの姉ちゃんばっかのハワイに行って楽しいもんかね?かえって自分の歳と腹の肉を自覚して傷つくんじゃねえの?あいつは昔からプライドだけは富士山よりも高えんだ。なんにもできねえくせによ。



 運ちゃんは立ち上がった。そろそろ行かにゃあと自分に言い聞かせるように呟きながら、コーヒーチケット二枚と千円札を置いた。



 坊主のコーヒーはおごりな。



 坊主じゃねえって。



 久方(猫に嫌われてる方)は、去っていく後ろ姿に抗議しながらも、笑っていた。いつもこうだから。人をバカにしながらもコーヒーをおごっていく。優しいが、優しさの発し方が変だ。だから奥さんにも伝わらなかったのかもしれない。

 おごられた方はマスターに、



 やられてるな。

 人手不足で毎日10時間以上働いて、帰ったら別れろじゃなあ。

 酒飲まして俺が運転してやりたいくらいだ。できないけどな。



 こう言いながら出ていった。

 運ちゃんの奥さんも何を思ったかわからないが、もっとわからないのは、今出てった久方(に見えるが違う人?)のほうだ。

 マスターはチケットと千円札を回収しながら思った。

 次に来たときは、絶対に正体を暴いてやろうと。




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