表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/1131

2015.12.16 研究所


 きのうクソオヤジのせいでヨギナミ家にいたくなくてさー、歩き回ったら風邪ひいちゃったんだって。あんなダメオヤジ早く死ねばいいのに。



 窓辺にまた現れて昼メロのような話を始めたのは、もちろん佐加美月である。きつい口調で言ってから、久方の反応をうかがうように、数秒無言でじーっと顔を見つめていたが、久方がなにも言葉を発しないので、またしゃべりだした。



 でさー、うちがお見舞いに行ったっけ、ヨギママがすごく怒っててさー。どーしたのって聞いたら、ヨギナミがいいかげん不倫やめろって説教したからなんだって。ヨギナミってときどきうちのババア並みに説教くさいんだよねー。熱あんだから寝てればいいのに。

 でもママもひどくてさー、あんたはその不倫から生まれた子でしょーって!!ひどくね!?事実でも言っちゃいけなくね?



 興奮と寒さで真っ赤な頬をした佐加は、今日もやはり変なニット帽と朱赤のコートを着ている。久方は笑顔を浮かべながら『そのコート目に毒だからやめて』と言うべきか言わざるべきか、本気で悩んでいた。



 バスまで時間あるからさー、もっかい様子見てくる。なんかお菓子あったらちょーだい。ヨギナミ咳してるから、のどにひっかからないやつがいいなあ。



 なんという図々しさだ。

 でも久方は食糧庫へ行き、しっとりしてそうなワッフルを発見し、持ち出して佐加に渡した。風邪の菌を持ち運ばれてないか心配しながら。佐加は跳び跳ねるようにして受けとり、また来るねーと笑いながら走り去った。

 久方は手をふりながら『二度と来るな!』と心で叫んだ。でも、ヨギナミにお菓子を渡すのは悪くないとも思った。風邪のお見舞いのためではなく、体調が悪いときに親とケンカし、さらに佐加にまで見舞われる不幸を哀れに思ったからだ。



 窓を閉めると、急に寒気がして久方はくしゃみをした。さっそく菌をうつされたかもしれないと思った。ただでさえ昨日理由もわからずに凍えさせられ、だるさがまだ抜けていない。今風邪をひいたら長引きそうだ、今日は早めに寝たほうがいいだろう。


 そのすぐあと、ピアノを終えた助手が降りてきて、



 俺のワッフルがない!!



 と騒ぎ始めた。助手は甘いものに目がない。久方はいつも通り窓の外を見ながら、



 佐加美月が来てたから、盗まれたんじゃない?



 とつぶやいてニヤニヤしていた。助手は怒り、玄関が嫌なら食糧庫にカギをつけようと言い出したが、もちろん久方は無視した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ