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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.15 研究所


 久方創は、一階の部屋で我に返った。さっきまで昼だったのに。助手のピアノがうるさいので散歩に出かけたら、いきなり夜の8時になっている。前にも似たようなことがあったが、今日は気温が低い。そんなに長時間外に出るつもりはなかった。

 自分がコートを着ていないことに気がついた。いつもかけてある壁に戻っていた。脱いでから切り替わったのだろうか。

 目の前の光景は異常事態だった。窓が割れて、冷たい風が室内に入ってきていた。メインテーブルは横向きに倒れ、ポット君が……カーテンの影に隠れて、怯えた顔を表示してこちらを見ている。



 何があったの?ポット君。



 ポット君は答えてくれない。



 怒らないから、教えて。



 久方はいろいろと言葉を変えて質問したが認識されず、仕方ないのでキッチンに戻れと命令してみると、ものすごい勢いで廊下に走っていってしまった。ロボットすら説明したくないことが起きたのか。

 久方はとりあえず段ボールとガムテープで割れた窓をふさぎ、飛び散ったガラス片を集めて、倒れたテーブルを元に戻した。割れた窓。ますます廃墟らしくなった。明日修理を呼ばなくては。

 寒気がするので2階の自分の部屋に行くことにした。

 ピアノの音はせず、助手の部屋も真っ暗。電気をつけて確かめたが、出かけているようだ。



 何があったんだろう?



 スマホには、早紀からのメールしか来ていない。

 秋倉高校では先生が休むと代わりに授業を仕切りたがる生徒がいるらしい。また東京から秋倉のローカル情報だ。平岸あかねが漏らしているに違いない。

 助手にかけてみたが、出ない。



 あの冷酷無比の助手が逃げるようなことをしたのだろうか、もう一人は。

 それとも、またポット君が別人を見て暴走したのだろうか。さっきの怯えた顔からして、その可能性のほうが高い気がした。



 ロボットが怯えて、なんか意味あるのかな……。



 機械が怯えることにも、自分がこんな目に遭い続けることにも、意味があるとはどうしても思えない。



 また一日無駄にしたな。



 今から何かしようにも、疲れてしまった。何をさせられたのかは覚えていないが、全身がだるい。冷気が体に染み込んでいて、ヒーターに当たってもなかなか寒気がとれない。

 もしかしたら別人は、わざと外を歩いて自分を凍えさせたのかもしれない。

 でも、そんなことをして何になるのだろう?病気で体が駄目になってしまえば、自分だって危険のはずなのに。



 もしかしたら、別人も生きているのが嫌なのかもしれない。

 だったら早く消えてくれればいいのに。



 その気になれば、別人は自分の人生を簡単に消すことができる。逃れる術がない。むやみに考えてしまうと、恐ろしくなる。

 横たわって目を閉じ、眠りが早く訪れてくれることを願った。


 何もかも忘れたかった。

 今だけは。




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