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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.7 サキの日記


 人の弱さを題材にした本を読んでいたら、バカの部屋にある崩壊寸前の一冊を思い出したので、読書を中断して、バカの部屋に行ってみた。



 その本は、手垢で黒く汚れている。触るのに一瞬躊躇するほどに。全体が読み癖がついて曲線状に折れ曲がり、ページにも折った跡や、あとから貼ったのか、付箋もたくさんある。色褪せたのと新しいのが混じっているから、最近も、昔も、ずっと読んでいるのだろう。書き込みもびっしりと余白を埋めつくしている。取れてしまったページもあり、その何枚かは、バカがいつも着ているくさいスーツの内ポケットに入れっぱなしになっている。

 それは、ある劇作家の演劇ノートだった。

 著者が死んだとき、父は泣いていた。小学生だった私は、近寄れなかった。かわいそうだと思ったからであって、決して豚まんの泣き顔が不気味だったからではない。


 父の部屋にはあまり本がないが、置いてある数冊はみな、程度は軽いが似たような状態だった。ドラクエでいうレベル76から82というところ。

 演劇ノートは明らかにレベル99を越えている。しあわせの靴をはいた賢者のようだ。



 自分の部屋に戻る。本棚も床も本だらけ。スマホにはもっと入ってる。今まで何冊読んだか、部屋に今何冊あるかわからないくらい、私は本を読んでいる。だけど、一冊の本をくりかえし読むことは、あまりない。書き込みもしない。

 もしかしたら、本の内容を理解したいからではなく、ただ時間をやり過ごすためだけに、私は活字に埋もれていたのかもしれない。


 あの、弱味だらけのバカと、何でも完璧に見せたがる母が、今の私を作り、混乱させていた。一方はおバカな世界へ誘い、もう一方は静かな場所に引きこもることを推奨する。自分のことは棚にあげて。



 私は何がしたいのだろう?




 もとの読書に戻った。読み終わったら夜中だった。私は読むのが遅いうえに、読んだあと考える時間がいるからますます次に行くのに時間がかかる。しかも考え始めるとコーヒーが飲みたくなる。飲めば当然眠れない。カフェインレスに変えたこともあるが、私の頭とは相性が悪いみたいだ。


 だから今日も眠らずに、

 考え事をしながら夜がふけていく。

 本を読まない人生も、考えない人生も、私には想像できない。

 でも、そういう人のほうが、幸せとは言わないまでも、楽に生きてそうだなとは、思う。





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