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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.6 研究所



 助手はコーヒーカップを片手に窓の外の変人を見ていた……コートの袖についた雪の結晶を熱心に見ている久方創を。頭はもう雪が積もって真っ白だが、本人は全く気にしていないようだ。



 何が珍しいんだか理解不能だな……。



 北国育ちの助手には、久方が何に感動しているのかいまいち理解できなかった。『肉眼で雪の結晶が見える』と言うが、結城にとってはそんなのは当たり前のことだ。冬になればだれでも写真に撮ってどこかに投稿してる。



 外の人がくしゃみをして震え始めた。いつもこれだ。気温を感じる能力が欠落していて、気がつくと風邪をひいている。夏は逆に、空に見とれて、そのまま熱中症にかかる。他人に注意されないと体温調節すら出来ない。やはり子供だ。助手は思った。手のかかるガキだ。



 凍え死ぬ前に戻れ。



 助手が呆れ顔で言うと、久方は嫌そうな顔をしたが、すぐ戻ってきた。ポット君がコーヒーを運んで来た。カップを持つ手が震えていた。



 サキ君、年末に来るって。



 久方がスマホを取り出したかと思うと、嬉しそうな顔をした。

 助手は思った通りのことを口にした。



 何が目的よそいつ。金でもお前でもないことは確かだけどさあ。



 久方は横目で助手を睨んだ。



 秋倉高校の先生と面談しに来るんだよ。

 変な想像すんな。



 お前じゃ変な想像も無理だって。

 女子高生には興味あるけどね。



 久方の顔に不安が浮かんだのを見て、助手は低く笑いながら立ち上がった。もちろん助手は『サキ君』とかいうガキんちょに興味はない。ただ、久方の反応を面白がっているだけだ。



 心配すんな。お前と気が合うようなガキじゃ、俺の相手にならないって。

 それより、別人の話できたか?



 久方は気まずそうに下を向いた。

 ここ2、3日、通話のたびに『サキ君』に話そうとしていたが、結局言い出せなかったようだ。



 ま、いいじゃん。年末に直接話せば。



 軽く言いながら、助手は部屋を出た。これで久方が少しは落ち着いてくれるといいのだが。冬になったせいか、気が塞ぐことも別人が出ることも多くなってきた。去年もそうだった。やはり寒さというのは人の神経を弱らせるのか。

 無神経を自認する助手でさえ、この時期は気が滅入るのだから、久方には辛いだろう。



 もう一人のガキんちょが、久方が言う通り頭のいい奴だったらいいけど。女子高生なんて口の悪い奴ばっかだからなあ。もし派手に嫌われたら、年明けに大荒れが来るかもしれないな……。



 助手は昔付き合ったことのある小うるさく残酷な女子学生数人を思い出し、珍しく複雑な気持ちでピアノに向かった。


 リスト。泉のほとりで。


 この寒さでは、どんな美しい水だろうと、冷たく凍りつきそうだが。




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