2015.12.5 サキの日記
サキ君、僕が昼間どこにいたか知らない?
着信があったと思ったらいきなりこんな質問。冗談かと思った。でも所長は本当に、昼間何をしていたか覚えてないという。とりあえず東京に来てないことは確かです、はい。
さすがに東京はないけど、朝起きて、昼前くらいまでは覚えてるんだよね。気がついたら夕方になってて、裏口に立ってた。しかも全身がだるくて……ベートーベンの邪悪なソナタが聴こえる。あぁ〜!
頭がカウンターに当たるような音がした。また助手がピアノを弾いているらしい。だからピアノ処分しろって言ったのに。
所長のことだから、また景色に見とれて、時間忘れちゃったんじゃないだろうか。
ごめん、サキ君に聞くことじゃなかった、忘れて。
通話はそこで切れた。
大丈夫かな、所長。
秋倉高校の先生と面談することになった。12月の最後の週に。そうだ、年末に秋倉に行くって所長に言うの忘れてた。今日は疲れてるみたいだから、今度にしよう。
今年は母もバカもギリギリまで仕事。母はたぶん、正月も会えないだろうとの事。だから平岸家におじゃますることにした。
正月は家族水入らずじゃないの?と平岸パパに聞いたら、
あーうちはね、数年前まで正月は大人数で祝ってたんだよ。帰る家のない子とか、事情のある生徒が多くてね。去年は久しぶりに4人で過ごしたけど、あかねも純也も無愛想でねー。
純也というのは、神奈川の大学にいるあかねの兄だ。
新橋も来るから、賑やかでいいね。母さんは今から警戒してるけどね。どうも昔から、真面目な母さんと新橋は合わないみたいでね。
うちのバカは正月に秋倉町に来る。
なんかすごく嫌な予感がする。
研究所にだけは近づけないようにしなくては。




