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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年12月

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2015.12.01 研究所



 ウキャアアアアアア!!




 久方が静かに読書していたとき、それは起きた。



 ああ、またなんか出たな。虫が。



 助手の悲鳴にはもう慣れてしまった。このくらいでいちいち騒がれてはこの建物での生活なんて成り立たない。



 なんか走ってた!!黒いのが走ってたって!!



 助手が真っ青になって飛び込んできた。

 久方は白けた顔でこう言った。



 ネズミか猫じゃない。新種の動物じゃないでしょ。寒いから入ってきたのかも。



 ネズミがここに出ることはまずないのだが、助手が怖がるのがおもしろいのでわざとこう言った。

 ちなみに、久方が言う『新種』とは、『この建物内で見た』という意味であって、学術上の大発見ではない。

 そういえば、来た頃は黒猫やカラスをよく見かけたが、最近来ない。カラスはともかく猫は気になる。今の方が食べ物はあるのに、どこに消えたのか。この雪の中をどうやって生き延びるのか……。



 お前はおかしい、絶対おかしいぞ!!



 助手はテーブルに勢いよく両手をついて、血走った目で久方を睨み付けた。

 ネズミより助手のほうがどう考えても怖い。



 何を当たり前のように『ああ、ネズミか』とか言ってんだ!?落ちぶれたからってネズミと共存してどうすんだ!?もっと自分を大事にしろよ!!



 話が変な方に向いている。久方はニヤニヤしながら、テーブルの下を指差した。



 今、なんか通りすぎた。



 助手は部屋を飛び出して行った。

 面白すぎて、久方はしばらく全身を震わせて笑い続けていた。



 後で散歩しようと外に出たとき、偶然、黒猫が林の隅にいるのを発見した……が、久方が近づくと、さっと茂みの中に隠れてしまい、いくら探しても見つからなかった。

 今も建物のどこかに住んでいて、気づいてなかっただけかもしれない。今度中に入ってきたら食べ物をやろう。そう考えながら建物に戻ると、頭のおかしい助手が、ポット君に手伝わせて床にモップをかけまくっていた。いつ買ってきたのか、消毒液まで置いてある。



 まるで喜劇だな……。



 久方は一階のいつもの位置に座り、中断していた読書を再開した。あとで猫と喜劇役者の話を新橋早紀に送ろうと思った。いかにも好きそうな話だから。




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