2018.3.1 木曜日 卒業式③ 修平とかスマコンとか
「あっという間だったね」
百合が言った。
「そうだね」
修平が言った。2人は図書室のカウンターに座っていた。
「でも、ほんとにがんばらなきゃいけないのはこれからだよね」
「そうだなあ」
その後2人は並んで黙り込み、この図書室で起きたことを思い出したりしていた。
「ずっと一緒にいたいね」
百合が不意に言った。
「俺も」
修平が笑った。さらに何か言おうとした時、ドアが開いてスマコンが入ってきた。
「伊藤をお借りしてもいいかしら。ちょっと話があるの」
スマコンは修平に向かって言った。修平は百合に「行ってあげなよ」と言った。百合はスマコンと一緒に廊下に出た。
「あのね──」
スマコンが珍しく言い淀んでいた。
「言っても無駄なのはわかっていてよ。でも──」
また少しためらってから、言った。
「わたくし、初めて会った時からずっと、伊藤を愛していたわ。ずっと一緒に生きていたいと思うほどに」
それから、さびしく笑って、
「でも、伊藤にはもう高谷がいるものね」
と言った。
「ごめんなさい」
百合は心から言った。
「スマコンのことは、人生で一番仲のいい友達だと思ってる。恋の相手としては見てあげられないけれど、個性的な所とか、はっきりものを言う性格は大好き。だからいつまでも変わらないでほしい」
「ありがとう。それだけで十分よ」
スマコンはそう言って上品に微笑んだ。
「これからみんなでカフェに集まるからいらっしゃいって、高谷に伝えて」
「わかった」
「今までありがとう。いろいろ」
「こちらこそ」
百合は優しく微笑んでから、図書室に戻っていった。
スマコンは廊下にしゃがみこんで両手で顔を覆った。
ああ、全て終わってしまった。
人生を賭けた恋。伊藤。私の全て──
──あなたを愛してしまった
この美しい過ちを。
頭の中にそんなフレーズと、美しい曲が流れてきた。
「新曲ができそう」
つぶやいて無理に笑おうとしたが、うまくいかない。わたくしはこれから何を頼りに生きていけばいいのだろう──
「スマコン」
声がした。少し離れた所に保坂と奈良崎が立っていた。
「俺、これから伊藤ちゃんに告白してくる!」
奈良崎が興奮した顔で言った。
「ダメなのはわかってるんだ。でも、俺の気持ちはどうしても伝えて、高校生活にけじめをつけたくて」
「せいぜい当たって砕けてらっしゃい」
スマコンが言い終わる前に、奈良崎は威勢良く図書室に向かっていった。
「ねえ、スマコン」
保坂が真顔で言った。
「俺がスマコンのこと好きなの、気づいてるよね?」
「もちろん気づいていてよ」
スマコンが頭を抱えながら立ち上がった。
「まったく、うまくいかないものね──でも、人生なんてこんなものなのよ。とっととカフェに行って、これから始まる新しい生活を祝いましょう。私達が幸せになるのはこれからなんだから」
スマコンは歩き出し、保坂の横を通る時、
「曲ができそうだから、引っ越す前に手伝ってちょうだい」
と言って、少し笑った。
「よっしゃ」
保坂も笑いながら、スマコンの後をついていった。




