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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年3月

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2018.3.1 木曜日 卒業式① サキの日記

 杉浦に告られるという超想定外のアクシデントはあったけど、卒業式はあっさりと終わった。泣いてたのは佐加だけ。もうちょっと何か起きるんじゃないかと思ってたけど。

 式には卒業生の親だけでなく、町の役員や近所の人、卒業生の代表みたいなおじさんおばさん達も来ていた。秋倉高校は廃校が決まっているから、この卒業式は、学校の『終了式』でもあるわけだ。

 入場の時、すごい人数に拍手されたのでびっくりした。みんなの間に変な緊張が走った。たくさんの視線を感じたまま卒業証書が授与された。修平は卒業できないんだけど、代わりに『修了証』みたいなのが渡されていた。それは『秋倉高校で一定の期間過ごした』証明くらいにしかならないものだろうけど、本人はもらえると思ってなかったらしく、少し照れた感じで笑いながら受け取っていた。でも本心はどうなんだろう?一人だけ単位が足りない。それは病気のせいで、本人のせいじゃない。成績だけ見たら、私や奈良崎よりもはるかに高い能力と努力が見えるはずだ。

 うろ覚えの『木立よ』を歌いながらそんなことを思ってたけど、校長の話が始まったら急に眠気が襲ってきて、カクッとなった所で杉浦に肩をつつかれた。くそっ、今日こそは眠らずにいようと思っていたのに、校長の声が催眠術すぎる!

 式は(半分眠っていたせいで)あっという間に終わり、気がついたらみんなと一緒に教室に戻り、河合先生の話を聞いていた。世の中に出たら君達は大変個性が強いから(ここでみんな笑ってた)壁にぶつかることもあるだろう。でもそこでくじけずに、どうすればいいか自分なりに考えて生き抜いてほしい──とか、そんなこと。でも私はその話をあまり聞いていなくて、すぐそばに迫った『もう、高校生活終わっちゃうんだ!』ということばかり感じであせっていた。いつまでも変わらないと思っていた生活があっさり終わろうとしている。いいんだろうか、本当に、今日で終わって。

 先生の話が終わってから、黒板にみんなで寄せ書きをした。ふざけて遊ぶのもこれで最後なんだって頭の隅で思いながら、みんなでバカみたいなことを書きまくった。黒板をチョークで埋めつくした後も、みんなその場で立ったまましゃべっていて、なかなか教室を出ようとしなかった。

 みんな、同じことを感じてたんだと思う。

 本当に今日で終わりなの?まだ終わりたくない、って。

 でも、いつまでも教室にいるわけにはいかない。式は終わっているし、外では親達が待っている。

 伊藤ちゃんと修平が先に廊下に出て、みんなそれについていくようにして出ていった。私は最後まで教室に残って、空っぽになった空間をながめていた。

 ああ、本当にお別れだ。

 そう思って悲しくなりかけた時に、


 新橋さん、ちょっといいかね。


 杉浦が戻ってきた。話があると言う。

 また長々と演説されるのかと思ったけど、今日が最後だしまあ聞いてやろうと思った。話は明治時代の文学から始まったが、途中から『知性のある女性と付き合いたいと思っていたが町にはいなくて』みたいな感じになってきたので嫌な予感がしてきた。


 どうかね。僕と一緒に文学を追求してみないかね。


 ときた。


 今はLINEもあるし、遠距離でも問題ないだろう。


 いや、ちょっと待て。


 あのさ、それって私と付き合いたいってこと?


 私は一応確認のため聞いてみた。


 もちろん。


 それって、私のこと好きってこと?


 そうに決まっているだろう。


 奴は少し照れながら言った。私の思考はそこで3秒ほど止まり、


 ──ブワーッハッハッハッ!!


 気がついたら爆笑していた。


 ウヒャハハハハハハハハハハ!ヒーッ!


 私はバカみたいに大声で笑ってしまった。杉浦には申し訳ないと後で思ったんだけど、あまりにも意外すぎというかおもしろすぎてツボに入ってしまったのだ。

 だって、あの杉浦が人を好きになるなんて!

 しかも私を!


 何何、どしたの?


 私を探しに来た佐加が教室に入ってきて、入れ替わりで杉浦は出ていってしまった(なんかごめん)。笑いがおさまってから佐加に今の話したら、


 えー!マジ!?サキを?

 ホソマユの分際で!?

 ウヒャハハハハハハハ!!


 今度は佐加が爆笑し、しばらく二人で笑っていた。

 杉浦には悪いけど、おかげで卒業式からモヤモヤ感じていた『今日で終わりなんだ』という悲しい気持ちは飛んでいった。

 世の中にはおもしろいことがあり、

 私達には未来がある。

 


 落ち着いてから二人で外に出ると、私の親と平岸夫婦と佐加の親が話し合っていた。浜に行って寿司食おうって話してたらしい。あかねも加わってみんなで『うおいち』に向かうことになった。

 お寿司を食べながら、親達が『時が経つのははやいものねえ』なんて話をしているのを横目で見つつ、私と佐加とあかねはいつもどおりマンガや動画や音楽の話をしていた。いつもと変わらず。そうだ、卒業したって自分が変わるわけじゃないし友達がいなくなるわけでもない。

 私達は変わらない。

 ただ、前に進むだけだ。


 卒業してからも連絡取り合おうね!


 佐加とあかねと、そう約束した。

 卒業旅行だってあるし、私達はまだ終わらない。



 帰ってから、所長からLINEが来た。


 卒業おめでとう。


 それから、


 僕は明日、神戸に帰るよ。


 と。

 そうだ、もう所長はいなくなるんだ。

 あしたは朝早く行って手伝ってあげなきゃ。

 それから、所長と初めて会った夏のこととか、一緒にいろんなことで泣いたり笑ったり怒ったりしたことを思い出した。

 いつの間にか当たり前になっていたこと、

 それが明日、終わる。




 




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