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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年2月

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2018.2.28 水曜日 サキの日記

 明日はとうとう卒業式だ。まだ全然実感わかないのに。

 

 午前中にうちの両親が、午後に修平が平岸家にやってきた。修二とユエさんも一緒だ。

 修平は前会った時よりもやつれて見えた。弱ってるんだなと思ったけど口には出せなかった。伊藤ちゃんも来ていて、2人でいろいろ今後の話をしていた。

 平岸家の、歴代の卒業生達の写真が貼ってある場所。そこに、いつの間にか、私が写っている写真も追加されていた。それを見たら、ここでの生活が一気に過去のものになったように感じた。あ、ほんとにもう終わるんだって。日常だと思っていたものが急に遠くのものになったような。

 写真を見ながら考え込んでいたら、母が近づいてきた。


 時間が経つの早いわね。

 こないだ産んだばかりだと思っていたのに。


 いくらなんでもそれは言い過ぎでは。


 でも、小さな子供が大人になるくらいの時間を、ずっと過去のことを思い悩んで台無しにしてしまうなんて、私、すごく後悔してるのよ。


 台無しになんかなってないよ。


 私は言った。


 お母さんなりにがんばってきたじゃん。


 子どもの頃に友人2人を自殺で亡くした。そのうち一人は目の前に落ちてきた──母はそんなつらい体験に一人で耐えていた。確かに私との仲はそのせいでギクシャクしたけど、それはもう、どうでもいいことだ。


 ありがとう。


 母はそう言って、とっても優しい顔(めったに見られない表情!)をしてから、平岸ママとケンカしている夫をなだめに行った。

 私はまた壁に貼ってある写真を眺めた。かつて平岸家に滞在していた多くの学生達──難しい環境で育った子や不良も多かったと聞いている──彼らはきっと、ここに、人とのつながりや信頼を取り戻すためにやってきたのだと思う。私がそうだったみたいに。平岸家はそのために大いに役立ってきた。でも、それも明日で終わりだ。


 終わり。


 本当に終わっていいんだろうか。何か重要なことをやり残していないだろうか。私はさっきからそれが気になって落ち着かない。

 一つだけわかったのは、

 時間の流れは容赦ないということ。

 どんなことでも、

 いつかは終わるということ──。




 

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