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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年2月

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2018.2.23 金曜日 研究所

 引っ越しの準備を早くしすぎて、もうほとんどのものをダンボールに詰め終わってしまった。まだここで一週間生活しなくてはいけないのに。調理に必要なものを探してダンボールをあさって、せっかく作った荷物のいくつかを開けてしまった。

 早く出発してしまいたい気持ちと、まだここにいたいという気持ちが、久方の中でせめぎ合っていた。

 2階のものはほぼ全て片付けてしまった。ゲストルームだった部屋も、もう大きな家具は引き取ってもらい、ダンボール箱がいくつかあるだけだ。

 かつて、レティシアが来て泊まっていった場所。

 あんなに夢中だったのに、今は思い出しもしない。

 自分は確かに変わった。過去を思い出してくよくよすることは少なくなった。今の方が、これから来る未来の方が大切だと思えるようになった。


 サキ君がここに泊まってたこともあったっけ。


 それは自分がいない時だったが。サキのことを考えると、このまま帰っていいのだろうかと悩む。しかし、彼女にも、自分にも人生がある。

 あきらめなくては。

 久方は1階に戻り、自分のためにコーヒーをいれた。ポット君は廊下にモップをかけている。昔、虫や動物におびえて結城がモップをかけまくっていたことを思い出した。あいつはおもしろい奴だった。こうむった迷惑も甚大だったのであまり感謝したくないのだが、助けられたことは事実だ。いつかもう一回会って、ちゃんとお礼を言いたい。

 カウンターに座って窓の外を見る。今日は曇っている。雪が降るかもしれない。

 こうやってゆっくり景色を眺める生活ももうすぐ終わりだ。

 何かやり残したことはないだろうか。

 久方はしばし考えた末、外を歩こうと思い、コートを着て出かけた。

 雪原はいつもどおり、静けさをたたえて広がっている。雲の動きは早く、厚みによる陰影があちこちに複雑な影を作っている。自分の歩く足音だけがかすかに響く。


 こうやって一人で自然と対峙してこれたのは、貴重な経験だったな。


 久方は思いながら顔を上げた。雲の向こうに丸い太陽が見えた。


 でも僕は、人がいる場所に戻って生きていかなきゃいけない。


 久方はしばしそのあたりを散歩してから建物に戻り、パソコンで昔の仲間に連絡を始めた。未来につながることをしたかった。もう過去の自分を振り返る必要はない。だから、ここにいる必要はない。

 心は、秋倉を離れ始めていた。





 

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