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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年2月

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2018.2.9 金曜日 サキの日記

 もうすぐ所長のコーヒーも飲めなくなるなと思って、どこのコーヒーなのか聞いてみた。酸味が少ないのが好きで、主にグァテマラのブレンドにしているそうだ。


 甘いお菓子に合わせて時々マンデリンに変えてたんだけど、気づいてた?


 全然気づいてませんでしたよ。私コーヒーは大好きだけど、味の違いは全くわからないらしい。ちょっと悲しい。コーヒーは文章以外で私が好きな数少ないもののうちの一つで、いつかバリスタの資格取ってみたいなと思ったこともあった。でも味がわからないんじゃ無理か。


 大学行ってから勉強すればいいよ。

 東京にはいいコーヒー屋がたくさんあるでしょ。

 カフェもたくさんあるし。


 所長がつぶやいた。


 そういう環境の方が、サキ君には合ってると思うよ。





 久しぶりに一緒に散歩した。全てが大雪に埋もれてしまって、大きな道以外は除雪入ってないから、足跡とスコップで道を切り開いていく感じ。2人で雪をかき分けながら草原の中心を目指した。1時間くらいで疲れて戻るはめになったけど。でも楽しかった。自分の手で雪をかき分けていく感覚。

 今日のコーヒーはマンデリンだった。ラングリーのチョコに合わせて。

 夕方5時にあかねが怒鳴り込んでくるまで、所長に卒業式の話してた。

 毎日『木立よ』を歌う練習をするんだけど、3番の歌詞が、


『私は 今ふたたび

 この町の土に立ち──』


 なので、町外へ出ていく若者がいつか戻ってくるようにマインドコントロールするための歌なのではないかとみんなで話していた。実際、何年かしてから戻ってくる人はけっこういるみたいだし。


 仕事さえあれば、この町は静かで暮らしやすいからね。


 所長が言った。


 僕もいつか、戻ってくるかもしれない。


 私も夏にまた戻ってきたいと考えてる。草原の夏は本当に美しいから。

 平岸家に甘やかしてもらえるのも今月までだ。来月からはまた東京に戻る。人が多くて、本屋やカフェがたくさんある刺激的な街に。私はそこでいろんなものを取り込みながら人生を作っていくんだ。

 ふと思う。

 秋倉での日々は、人生の夏休みだったんじゃないかって。

 傷ついた心を癒やして、自分を見つめ直すための。

 そのために、ここよりふさわしい場所はなかった。

 本当にそう思う。

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