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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年2月

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2018.2.5 月曜日 サキの日記

 勇気が、秋倉高校の校舎をアミューズメントパークにしたいと言い出した。体育館も音楽室も化学室もあって、やろうと思えば何でもできる場所なのに、使わないのはもったいないと。

 スマコンがお父さん(町長)に聞いた話だと、ここの校舎は取り壊し予定があったが中止になり(理由はよくわからないとのこと)、かといって何かに使われる予定もないという。

 勇気の話に杉浦が乗って『校舎の有効利用』をきちんと企画書にして町に提出してみようみたいな話になった時、


 ウフフフフフフ。


 あかねがあの笑いを発し始めた。


 廃校になった学校にこもって実験をしている美しい科学者。そこに美少年が迷い込んでくるの。すっかり彼のとりこになった科学者は、実験室に少年を閉じ込めて愛の実験を繰り広げ──


 クラスの全員が、教室から逃げ出した。




 帰り、外が見えないくらい真っ白な猛吹雪になった。河合先生が、危ないから親が迎えに来るまで外に出ないようにと言った。浜から来てる佐加と藤木は『今日、帰れないかも』とぼやいていた。

 真っ白な窓の外を眺めながら、私は、こんな体験ができるのもこれが最後だな、と思った。

 平岸パパの車が、幸福商会の除雪車に先導されてやってきた。それくらいしないと道を通れないくらい雪の勢いがすごいということらしかった。除雪車の後をついて、車はのろのろと走った。草原はどこまでも真っ白で、窓に当たる雪つぶてだけがはっきり見えた。

 いつもの10倍くらいの時間をかけて、やっと平岸家に着いた。

 平岸パパは『町の除雪を手伝ってくる』と言って、ブルトーザーに乗り換えて出ていった。平岸ママがジンジャーティーとガレットブルトンヌを出してくれた。バターの風味がとてもおいしい。ゆっくり休んでから、ヨギナミと2人で平岸アパートまでの道を雪かきして作り(けっこう大変だった!)部屋に戻った時には疲れてベッドに倒れた。

 佐加からLINEが来た。


 うちと辰巳、学校に泊まることになりそう。


 だって。


 でもエッチなことはしないと思うから安心して。

 河合先生も泊まりだから悪いことできないしね〜。


 何を言ってるんだ。河合先生かわいそう。

 修平から『すごい吹雪って聞いたけど大丈夫?』と言ってきたので、除雪車に先導されて帰った話をしたら『俺もその車乗りたかった!』と。吹雪に巻き込まれることすらうらやましいらしい。

 私はとても恵まれている。

 健康で、こういう体験ができて。

 夕食に行こうと思ったら、さっき作った道がもう埋まっていて、また雪かきするはめになった。平岸パパはまだ帰ってきておらず、平岸家にはビーフシチューの匂いが充満していた。体力使ったせいか無性にお腹が空いていたので三杯食った。平岸パパの分はあるのか聞いてみたらあかねが『どうせ作りすぎて明日の朝も出すつもりだったんだろうから、いいでしょ』と言った。

 お腹いっぱいになって部屋に戻ろうとしたらまた道がない。ヨギナミと雪かきしながらアパートに戻った。明日の朝起きたら玄関埋まってるんじゃないかとちょっと怖くなる。

 幸い停電とかは起きておらず、部屋に入ってしまえばいつもどおり快適だ。勉強することにする。時々、外から風の音が聞こえる。

 佐加から、先生と3人で映画見てるとLINEが来る。河合先生の好きなアラン・ドロンらしい。佐加は服にしか興味がないので、登場人物の服で気に入ったやつをいちいち報告してくる。その間にあかねから、昼間言ってたBL妄想のキャラ絵が送られてきたりもした。美少年と科学者のあれ。『嵐の夜は妄想がふくらむのよ』って、だからって私にBLマンガの企画書を送られても困る。

 こういう友達に悩まされるのも今月までだと思うと、さびしい気もする。

 卒業したからって急に連絡取らなくなったりはしないだろうけど、会うことはできなくなるし、やっぱりいろいろ変わってしまうと思うから。

 所長のことを思い出して『大雪大丈夫ですか?』と聞いてみた。幸福商会の除雪車が一回来たらしいけど、すぐまた積もってしまったから1時間に一回くらい外を見に行って玄関の雪をよけていると言っていた。

 雪景色は美しい。でも自然は本来恐ろしいもので、雪だって多すぎれば人の命に関わる。クリスマスの広告の雪みたいなロマンチックなものじゃない。

 実際住んでみると、雪の大変さがわかる。

 それだけでも、ここに住んでみてよかったと思う。





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