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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年2月

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2018.2.1 サキの日記

 2月!2月だ!高校生活もあと一カ月!受験は25日なのであと3週!実は私と伊藤ちゃんが一番試験日遅いので、一番長く勉強しなきゃいけない。杉浦は直前まで塾を開くと言ってる。ありがたいのか迷惑なのか。

 佐加がずっと、


 制服着られるのあと一カ月しかない。


 とぼやいている。もうすぐ女子高生じゃなくなる私達。でもそれって何だろう?何が変わるんだろう?きっとまわりの目が変わるだけで、私達が変わるわけじゃないと思う。

 奈々子が言ってたっけな、女子高生に見られるのが嫌だったって。当時は援助交際という名の売春が流行っていたから、女子高生はみんなそういう目で見られていたって。今でもそういうよこしまな目で見る人はいるのだろう。そういう人達とはおさらばできる。かわりに、JKという若々しい地位も失う。まあ、仕方ない。人は歳を取るものだ。それは誰にも止められない。


 卒業式の練習が始まった。

 うちの学校に校歌があることを初めて知った!

 しかも式までに覚えてこいって、音源と歌詞を渡された。

 まだ受験終わってないのに歌覚えろって言われても。

 他の人達も『名前は知ってたけど聞いたことなかった』『去年の卒業式で先輩は歌ってなかったよね?』と困惑していた。

 よく話を聞くと、『木立よ』という題名のその歌は、高校の歌ではなく秋倉町の歌で、昔は町の行事などで歌われていたらしい。しかし、国歌斉唱に反対する学生や教職員とのもめごとで、行事で歌を歌うこと自体なくなった。この歌も長年忘れ去られていた。

 なぜ今頃復活したのか。

 杉浦のせいだ。


 学校最後の卒業式だから、町の歴史を表すこの歌を復活させたい。


 と、勝手にいろんな所にかけあって、復活させてしまったのだ。

 ホソマユめ、余計なことしやがって。


 スマコン以外の全員が怒っていた。いつも杉浦とケンカしてるスマコンがなぜ反対しなかったのかというと、


 わたくし、この歌、好きなのよ。

 人生っぽくていいじゃない


 だって。町出身の作詞家が書いた歌詞は、確かにドキッとする所がある。


『木立よ 夢を捨てた日を

 お前は 許せるか

 降りそそぐ 落ち葉のように

 暮れゆく 時の中で』


 という歌詞があるのだ。どうも、一回町を出たけど夢破れて戻ってきちゃって、第二の人生を歩むみたいな歌らしい。私みたいに前の学校で失敗して来た身には刺さる。でも、こんな不吉な歌を卒業式で歌うってどうなのよって思うんだけど、なぜか先生方はみな賛成で(歳のいった人ほどこの歌をよく知っているらしい)困ってる。

 勉強するべきか、歌の練習をするべきか。


 試験前に伴奏の練習しなきゃいけないべや。


 保坂が言った。ピアノ弾けるの1人しかいないから。スマコンに『いいからやれ』と言われていた。

 卒業まで一カ月なのにこんな事件が起きるとは。

 ホソマユはなぜいつも余計なことをするのだろう。

 今日は奴に会いたくないので塾に行かずに帰った。

 卒業。

 ああ、ほんとにもう卒業なんだ、終わりなんだ。

 一カ月しかないのにまだうっすらとしか実感がわかない。

 勉強してたんだけど気が散るので『木立よ』の音源を聴いていた。合唱曲。奈々子が好きそう。彼女は天国で何してるだろう。このありさまを見て笑ってるだろうか。


 所長にこの歌知ってます?って聞いたら、やっぱり知らなかった。

 夕食の時に聞いたら、平岸ママは知ってて、平岸パパは知らなかった。平岸ママは産まれた時から秋倉にいるので、小さい頃に聞いたことがあるという。平岸パパは婿養子で札幌育ちなので、全く聞いたことがないと言っていた。

 平岸家は4月から民泊を始めるために、アパートの空き部屋を整えている。学校がなくなって学生がいなくなるので、これからは一般の人を泊めようということらしい。私も泊まりに来ていいですかって言ったら『いつでもどうぞ』と笑ってくれた。

 いつかまた戻ってきたい。

 平岸家を出るの、すごくさみしいし、心配。平岸ママの料理なしで大学生活を送るのすごく心配。

 私も少しは料理した方がいいかな。




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