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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年1月

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2018.1.28 サキの日記

 去年のバレンタインのこと思い出した。まだ勇気と付き合っていて、手作りチョコしたらめっちゃ固くなって結城さんにディスられたっけ。

 勇気と付き合ってわかったことは『心から好きじゃない人とは付き合ってはいけない』ということだった。世の中には、好きでもない男の子をプレゼントその他目的でキープしてる子がけっこういるけど、私はそういう子にはなれそうにない。

 伊藤ちゃんが平岸家にチョコ作りに来て、なぜかスマコンまでついてきた。


 伊藤が作るチョコを食べられる機会なんてないもの。


 とか言って。あのー、あなたのために作るんじゃないんですけど。

 カッパ用のチョコだからキュウリでも入れとけばって冗談で言ったら、伊藤ちゃんにマジの目で『そういうことを言ってはいけません』と怒られた。いつもは部屋にこもって出てこないあかねまで出てきて、チョコレートを変な形に盛って遊んでいた。

 どうして日本だけ女子がチョコを渡す日になったのか。

 どっかで読んだ話だと、昔は告白は男がするもの(今もそう思ってる人がけっこういるらしい)で、女性からするのは『はしたない』ことだと思われていた。なので、女性から愛の告白ができる珍しい機会としてバレンタインデーが受け入れられたのでは、という。でも、女子だけチョコ用意して男子は返さなくてもいいなんて不公平だし、なんか日本って未だに、物事の主導権を男性に渡してしまって、女子に決断させない傾向があるような気がする。女性の社会進出が進まないのもそういう所があるからじゃないか──

 なんてうっかりチョコ作りの場で話したらみんな引くったらない。伊藤ちゃんからは、


 今日は修平のことだけ考えてチョコ作りたいの。


 とまた怒られるし。

 あかねは今日は妄想を発さなかった。代わりに、平岸ママのチョコは平凡すぎてつまんないとか言って、インスタで派手なデコレーションのチョコレートケーキを見ていた。平岸ママもそれにはすごく興味をそそられたようで、明日ケーキを作るとか言い出した。完全に娘の挑発に乗せられてる。

 スマコンは伊藤ちゃんにもらったチョコを、一粒一粒愛おしむように眺めてから、ゆっくりと、優雅に口に入れて味わっていた。

 スマコンって女だなあと私は思った。ここにいる女子の中で一番普通の女子っぽい。

 私もチョコレート分けてもらった。

 部屋に戻ってから、スマコンの真似をして1個ずつ眺めながら食べた。

 伊藤ちゃんは器用だ。型を使ったわけじゃないのにチョコはきれいな四角形をしている。見た目にムラもない。口に入れるとなめらかにとろける。いつか私が作ってしまった石のようなチョコとは大違いだ。

 私は恋する乙女にはなれない。それは私じゃない。

 普通の、ファッションやメイクや恋愛に夢中な女の子だったら、生きるのはもっと楽しかったかもしれない。でも私はそうじゃない。世の中で起きたことをああだこうだ思考し、文章にせずにいられないのが私だ。

 理屈っぽいのが嫌われるのは知ってる。女がやるのは特にこの国では嫌われる(だから日本には女性の政治家が少ないんだ)。でも、考えずにいられないのが私だ。だから仕方ない。

 愛のチョコを全部溶かして箱をゴミ箱に放り込んでから、私は自分の未来のために勉強することにした。

 そういえば次の受験は伊藤ちゃんも一緒だ。まさか同じ大学に行くことになるとは。いや、まだ受かるかわからないけど。




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