2015.11.27 東京都内
「センセー」
高谷修平は暗闇に向かって話しかけていた。
「いる?」
隣に、淡い光と共に、丸メガネの先生が浮かび上がった。
『いつだっていますよ』
先生は優しく微笑みながらも、少し皮肉っぽく言った。
『残念ながら』
「残念とか言うな」
修平は隣の棚から手紙を取ろうと思ったが、暗いのでやめた。
「久方に手紙書いたの覚えてる?」
『ええ』
「返事来た」
先生の顔から笑顔が消えた。
「本人じゃなくて助手から」
『助手?』
「本人に母親の話するとパニックになるから、こういうものは送るなって。本人に見せないで勝手に返事してきた」
『パニックですか』
先生は悲しげな顔をした。
「昔のことは何も覚えてないから聞いても無駄だって」
『創くんは新しいご家族のことしか知らないんでしょうね』
「じゃあなんで母親の話でパニクるんだよ?変じゃない?怖い奴だって覚えてるからパニックになるんじゃない?」
修平の声が大きくなってきたので、先生は慌てて口許に手をあてて注意した。
「しかもこの助手って結城だよ結城」
修平の両親から聞いた結城の話は、先生も覚えていた。
「絶対なんか隠してるって……すげぇやな予感がする」
修平は話し疲れて目を閉じた。
「早く秋倉行きたいな」
『修平君』
先生は控えめに、ただしはっきりと言った。
『今、自分がどこにいるかわかってますか』
「病院」
修平は入院中で、今は夜中だ。本来なら誰とも面会はできない。
「でもすぐ退院できるって。まあ見ててよ」
『やめたほうがいいんじゃないかな。仮に居場所がわかったとしても、解決する方法を知っているとは限らないですよ』
「先生らしくないね、その諦め方」
先生は黙った。今まで、修平が何かを諦めようとするたびに『やるまえから投げ出してはいけないよ』と言ってきたのは自分だ。まさかそれがこの子の健康を害することになるとは。
「先生のためじゃない」
修平は目を閉じたままつぶやいた。
「全部俺のため。100%自分のために行きたいだけ。だから責任感じなくていい。今にわかる」




