2018.1.21 日曜日 サキの日記
夏目漱石が『I love you』を『月がきれいですね』と訳した問題。
私は『余計なことしやがって』と思ってしまうのだが。だって、遠回しすぎて何言ってるかわからないし、これにどう答えたら返事したことになってしまうのかもわからない。その気はないのに誤解された人がたくさんいるのではないだろうか。『月がきれいですね』と言われて『あなたを愛しています』の意味だとわかる人って、現代にも昔にもどのくらいいたんだろう?
私は遠回しな表現が苦手だ。意味わかんない。
杉浦はこの問題を問題だと思っていない。むしろ『奥ゆかしくて素晴らしい』と思っているらしいので、奴に『月がきれいですね』と言われた女子は、全力疾走で逃げた方がよい。
明治時代ならともかく、今どき愛情表現もまともにできない男子が、そういうことにうるさくなった女子の相手にされるとは思えない。
ていうか『遠回しに言えば察してくれるだろう』なんてのは単なる甘えだ。明治生まれの男達は女に甘えすぎていたのでは?
なんて話をしたら杉浦が怒り出して当時の世界情勢とかを熱く語りだしたので『用事を思い出した』と言って平岸家に逃げ帰った。
ヨギナミが平岸ママとマドレーヌを焼いていたので、杉浦に『月がきれいですね』って言われたら逃げた方がいいよと言ったら、
むしろ言われてみたい。
だって。やめとけ。奴だけはやめとけと言ったら変な顔をして奥に引っ込んでしまった。お菓子の香りにつられてあかねがやってきたのでこの話したら、
月夜にご主人様に呼び出された美少年。
『月がきれいですね』と言われたので『はい』と答えたら、『それではそなたを愛してよいのだな?』と言われて押し倒され、2人は月の光に包まれながら官能の世界へ身を落としていくのよ。ウフフフフ。
妄想を刺激してしまった。私は今、深く反省している。
でも、あかねが言っているような誤解が日本各地で起きていたのではないかとも考えられるのがけっこう怖い。こういう話を聞くたびにバカみたいだと思うけど、日本には『食事をOKしてくれたらセックスもOK』と誤解している知能の低いダメ男がたくさんいるらしい。きっと明治生まれのダメ男は『月がきれいですね』と言って女性がよさそうな返事をしたら、結婚やセックスもOKと誤解していたのでは?だとしたら怖い話だ。
遠回しな表現を使うのは本当にやめた方がいい。
下手したら訴えられて捕まる。
あの静かな所長でさえ、私のことは『好き』ってはっきり言ってたしな。
そうだ、所長をどうしよう。
私はもうすぐ卒業して秋倉を離れる。
研究所に行けなくなるの、嫌だな。




