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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2018年1月

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2018.1.5 金曜日 サキの日記

 平岸ママが、


 老人ホームに行くんだけど手伝ってくれない?

 でも、もう試験も近いから無理かしら。


 と聞いてきた。確かにセンターまであと1週間だけど、気晴らしに行くことにした。あのおばあちゃん達がどうしてるか気になったし。


 悲しいことが一つ。

 この前『怖いことはないのよ』と言ってくれたおばあさんは、もう亡くなっていた。

 突然急変したらしい。


 今日もフラワーアレンジで、手が動かせないおばあさんの代わりに私が花をスポンジにさしてあげた。出来上がった後『それ、あげるわ』と言われた。気に入らなかったのかなと思ったら、


 誰かに何かをあげるのがうれしいだけよ。

 受け取って。


 と。だから私の部屋に今飾ってある。

 ここの人はみんなきちんとした服装をして、きれいにメイクしている。外見に対する意識は高そうだ。インスタグラムやってみたいんだけどどうなのと聞かれ、うまく答えられないので佐加のを見せた。手作りの服ばっか載ってるからそのことで話が盛り上がった。私達が若い頃は既製服なんか売ってなかったから、みんなミシンで子どもの服を作っていたものよ。セーターだって売ってなかったわ。みんな自分で編んでたの。

 その時代に生まれなくてよかったと思う、手作りできない私。

『若いからファッションとかコスメのことを知っているだろう』と思われているのか、今流行ってるものは何なのとかいろいろ聞かれたんだけど、私は興味なくて知らないので教えられなくて、youtubeでコスメレビューしてる人の動画見せてごまかした。

 物事に興味がないと、人と話すときに困るということを学んだ。

 本の話題が出なかったのを少し残念に思った。芥川賞を取った小説は必ず読むというおじいさんが一人いたけど、昔の話が好きで、今という時代には関心がなさそうだった。ファッション好きのおばあさんの方が、スマホを使いこなして現代に適応している不思議。

 リアルタイムではない本の魅力って、内容の深さとか濃さだと思う。その本の中に入っていって著者の話を聞き、自分の内面に取り込んでいく作業。

 もちろんそんか話はしなかった。平岸ママとおばあさん達かレシピについて話していた。今はしないからか、自分が料理していた頃を懐かしむ人もいれば、『3度の食事を作るのは苦痛。もうやりたくない』という人もいた。

 

 帰りの車で、平岸ママは、


 ほんとはあかねにも来てほしかったんだけど。


 と言った。


 でもあの子、昔からお年寄りを嫌がるの。おばあちゃんが怖い人だったからかもしれないわね。あさみのことも嫌っていたし。年上の女性全般嫌いなんじゃないかしら。

 あのまま卑猥なマンガを描いて一生を送るつもりなのかしら。

 私もパパも心配なのよ。


 私は好きじゃないけど、BLマンガは世間一般に認められたジャンルになってるし、せっかく賞取ったんだから描かせてあげた方がいいですよと言っといた。マンガ以外のことをしてるあかねなんて見たことないし、普通の仕事が向いてるとも思えない。

 一般企業のデスクで突然、

『インスピレーションが!』

 とか叫んで男同士のセックスの話を叫びだしたら、100%セクハラでクビになると思う。


 少しはファッションやメイクに興味を持ってみようと思った。けど、youtubeとかファッション雑誌の公式ページをいろいろ見てたらよくわかんなくなってきた。佐加にその話したら、


 好きな服着て、好きなメイクすりゃいいじゃん。

 流行りなんてないって。

 昔の人はみんな同じ雑誌見て同じテレビ見てたらしいよ。だから流行るものは一度に一つだけだったらしいよ。

 今違うじゃん。人それぞれだって。

 何か好きなスタイルないの?


 ファッションの次はスタイルだ。スタイルって何だよ!?

 佐加は70年代くらいの細いシルエットが好きで、今のビッグシルエットはあまり好きじゃないと言っていた。でも、昔のシルエットをそのまま使うと古くさく見えるのでなんとかかんとか。

 1時間くらいそういうやりとりをしてたんだけど、スタイルもシルエットも何もわからないので頭に入ってこなかった。

 やっぱり私はファッションには興味がない。

 いさぎよく本を読んで文章を書こう。




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