2018.1.3 水曜日 ヨギナミ
『今日から塾を開催する。
センター試験まで二週間もない。休みだからといってダラダラしていてはいけないよ。今がラストスパートだ!
特別授業を開催するからぜひ来たまえ』
杉浦からのお知らせが来た。見た瞬間にヨギナミは笑ってしまった。みんなの嫌そうな顔が目に浮かぶ。
杉浦に会いたいが、塾には行きたくない。
自分の方を見てくれないのがわかるからだ。
ヨギナミは部屋でビジネスマナーの動画を見ていた。保坂が古いパソコンを譲ってくれて本当に助かっている。時々動作が遅くなるが気にしない。
4月から公務員なのだ、しっかりしなくては。
熱心に画面を見ていた時、誰かがインターホンを押した。出てみたら早紀だった。
杉浦塾に行かないの?
行かない。三が日からホソマユの顔見たくないもん。
何か用?
ちょっと話してもいい?
ヨギナミは嫌だったのだが、『いいよ』と言ってしまった。動画を止めているうちに、早紀はベッドの上に座っていた。
ヨギナミさあ、高条のこと好き?
そんなことない。
ヨギナミはすぐ否定した。いつか聞かれそうな気がしていたので心の準備ができていた。
やっぱホソマユが好きなの?
ヨギナミは無言でうなずいた。早紀は顔をしかめた。
やめた方がいいよ。あいつ自分のことしか考えてないって。
勇気の方がいいよ。時々ムカつくけど、勇気は人のことちゃんと考えられるもん。
杉浦だって人に気をつかってるよ。
どこが?
塾を開いてるもん。みんなのために。
あれは絶対自己満足だって。自己顕示欲を満たしたいだけだって。
そんなことないもん。
ヨギナミ、一人になるのがさみしいんでしょ。
早紀が決めつけたようなことを言い出した。
お父さんもお母さんもいない。これから一人ぼっちで生きていかなきゃいけない。だから好きな人にしがみつこうとしてる。よくないよ、それ。ヨギナミは一人で生きていく力があるんだから、まず自分の生活を確立すべきだよ。パートナーを探すのはその後でいいって。
ヨギナミの顔が怒りで真っ赤になった。なぜそんなことを言われなければいけないのだろう。
サキはどうなの?所長さんをほっといていいの?
反撃したつもりだったが、
所長はそういうのじゃないし、私は大学行ってから彼氏作るからいいの。
あっさりかわされた。
それってひどくない?
好きでもないのに付き合う方がよっぽどひどいでしょ。私は勇気をそれで傷つけてしまった。だからもう同じことはしない。
早紀は立ち上がって、
勇気、今日の昼に仙台から帰ってくるよ。カフェも開いてるし。
と言ってから部屋を出ていった。
何なの!?
ヨギナミはしばらく怒って部屋の中をうろうろしていた。そのうち落ち着いてきたので動画の続きを見始めたのだが、集中できなかった。
高条なんかどうでもいい。
カフェなんか絶対行かない!
そう思っているとスマホが鳴った。シェフから『週末に会えませんか』とLINEが来ていた。そうだ、シェフ、忘れてた。ちゃんと断らないと。
いいですよと返事をしてから、ヨギナミは椅子の背もたれに倒れ込んでため息をついた。早紀の言葉には腹が立ったが、言っていることは正しいのかもしれない。自分に結婚は、まだ早い。
でも、3月に卒業したら、杉浦とは離ればなれになってしまう。
本当にそれでいいの?
ヨギナミは考え続けたが、答えは出てこない。




