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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.30 土曜日 サキの日記

 朝起きたら、目の前にバカっぽい顔があった。唇を突き出してキスのまねごとをしてきやがったので、思いっきり平手打ちしてやったら、見事にドアに向かって吹っ飛んでいった。


 今のすごい一撃だったわね、サキちゃん。


 いつのまにか現れた妙子、じゃなくて母。なぜか大喜びしている。起き上がって床を見たら、父が白目をむいて変な体勢で倒れていた。

 うちの両親は、きのうの夜秋倉に着いたらしい。

 母の表情が、前より柔らかくなったような気がする。楽しそうだし。カウンセリングとかでいろいろ変わったのかな。

 一緒に朝食をとってから、テレビの間でいろいろと話した。今度、舞台で夫婦共演するそうだ。カントクの脚本で。私は幽霊が消えた話とか、もうすぐここでの生活が終わるからいろいろ振り返って小説にしてるとか、そんな話をした。母は私の小説を読みたがったけど『まだちゃんとした形になってないから』と断った。なんとなく見せるのは恥ずかしい。父は『カントクには見せてるくせに』とすねていた。

 昼はカフェに行った。大人2人は松井マスターと話し込んでいた。勇気がいないので聞いてみると『仙台に帰っている』と言われてびっくりした。両親と仲悪いはずなのに。どうしたんだろう。

 客の何人かが母の正体に気づいてサインを求めてきた。父が『俺のは?俺のは?』としつこく言って嫌がられ、さらにすねてしまった。3杯目のコーヒーを飲みながらまた『あの女優は俺に気がある』みたいな話を始めたので、母は笑いながら聞いていた。ドラマで共演した若手女優に、焼肉食べたい!食べに行きましょう!としつこく言われたとか。それはいい金づるだと思われてるだけだよと私が言ったら、『俺の夢を壊すな!』と。何を夢見てるんだ、このバカめ。

 佐加が自分で作ったしめ縄と正月の飾りの写真を送ってきたから、父が母に首絞められてる写真を返した。すぐ『やばっ』と返ってきた。

 妙子のイメージはなかなか消えない。こないだ普通の主婦役でドラマに出てたんだけど、『怖い』『何か起こしそう』と書かれてた。『笑顔の裏に黒いオーラが見える』とか。でもまあ、そのうち──みんな忘れる、かな?

 カフェでハートのアイシングクッキーをくわえながら自撮りしてる母は、どこにでもいる普通のおばさんにしか見えない。今日はメイクもリップくらいしかしてなさそうだ。

 父がいつまでも武勇伝を語り続けるので、カフェから追い出すのに苦労した。2人は隣の町の観光スポットに行きたがったが、私は一人になりたかったので断って部屋に戻り、小説の続きを書いた。年末年始はあまり勉強しないことにしていた。秋倉での最後の正月だから、今を楽しみたい。

 3時ちょっと前におやつを期待して平岸家に行ったら、純也さんと林音さんがちょうど着いたところだった。久しぶりにお兄さんが帰ってきたのに、あかねは部屋から出てこない。


 今、大作を描いてるんですってよ。


 平岸ママがうんざりした顔で言った。


 美しい王様が時空を超えて旅しながら、いろんな時代の美少年と遊ぶ話なんですって。ほんとにあの子なんとかならないかしら。


 一回痛い目にあってほしいよほんと。


 純也さんが言った。それから、お土産に買ってきてくれたディズニーランドのお菓子を一緒に食べた。

 2人は来年の4月から、私達と入れ替わりで秋倉に帰ってくるそうだ。結婚式の話してたから私も呼んでと言っといた。

 ジューンブライドだ、いいな。

 私も結城さんと結婚──は、しなくないかも。あの軽いノリと女好きで絶対苦労しそうだし。でも、私もいつかはウェディングドレスを着るんだろうか。林音さんは似合うけど、私が着てもなんか、お笑い感が出てしまいそう。しかもうちの父が隣でエスコートしてたらなおさらコントに見えてしまう。

 ウェディングドレス姿で父をボコボコにする場面を想像して止まってたら、林音さんに『どうしたの?』と言われてしまった。

 父と母から『夕飯はこっちで食べる』とLINEがあり、はりきって作っていた平岸ママはがっかり。2人の分は私が食べた。お腹いっぱいすぎて今、何もできずにベッドでゴロゴロしながら日記書いてる。

 ヨギナミに『勇気が仙台に帰った』って話したら何か動揺してたみたいだった。やっぱり好きだな。間違いない。杉浦よりは勇気の方がマシだと思うけど。

 あの2人いつか付き合うのかな。

 私は勇気のことなんか元々好きじゃなかった。なのになぜこんなに気になるんだろう。

 彼氏ほしいのかな。

 大学行ったら作ろう。文芸とか演劇のサークルに入ったら、きっと誰かに出会えるだろう。




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