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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.26 研究所

『やる人天国、見る人地獄』なんてのも、知る人は少なくなったんだろうな。でも俺は全ての芸はそういうもんだと思ってる。もちろん実際に上演するときは、人に見せてもいけるやつじゃないと客が帰っちゃうけどね。しかしだ、始まりはやっぱり、作ってる奴にとっては名作、他人から見れば『なによそれ』悲しいかな、全てはそこを覚悟した時に始まんのよ。だから三文オペラが大事だと。ブレヒトって知ってる?知らない?まあいいや。とにかくね、三流の芝居、B級映画、そこにも必ず何かある。だからね、俺にとっては駄作なんてこの世に一つもないんだな。もちろん自分の作品が必ず傑作とは言わないけどね。俺天才型じゃなくて努力型だから……おい、なんでここでブー鳴らすんだよこの局の奴らは!?







 新橋五月のバカ話をラジオで聞きながら、久方創は眠い目をこすっていた。昼頃まで寝ていたが、まだ目が覚めない。



 そんな長々と何を話すことがあんのよ?



 助手は傲慢な態度で呆れていた。



 大事な話だよ。



 久方は窓の外を見ながらつぶやき、心の中でこうつけ足した。



 お前には絶対にわからない!



 怪しいなあ。女子高生と夜中の3時に大事な話か。



 助手はいかがわしい想像を始めたようだ。久方は無視することにした。自分とは違う人種なのだろうと思いながら。

 そんなことより、昨日早紀が言っていたことが気になる。誰かそばにいる人はいないのかと聞いたとき、早紀はきつい口調でこう言った。



 所長だって親の話はしたくないんでショ!?私にも家族のことは聞かないでくだサイ。どうせ友達もいませんよ。フン。



 なんてわかりやすい寂しがり方だろう。

 それより、自分はいつ早紀に『家族の話はしたくない』なんて言ったのだろう?確かに避けたい話題ではあるが、そんなことを早紀に向かって口にした記憶はない。




 ま、いいですけどね別に。



 助手はからかうような声とともに立ち上がり、ドアを開けたところで振り返った。



 泣くほど辛いなら、最初からそう言えよ。何でも隠せばすむなんて思うな。我慢して解決することなんか何もないって。

 何が大事な話だ。ガキがガキに泣きついてただけだろうが……。



 助手はぶつぶつ言いながら去っていき、久方はドアを見つめながら、呆然としていた。


 助手にバレていた。


 それは、真夜中の電話より、いや、昨日起きた出来事そのものよりも、何倍も衝撃的だった。




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