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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.24 教会 伊藤

 教会はいつもの信者だけではなく、一般の人も集まって混み合っていた。いつもは神など信じない人々も、この日だけは信心深くなるらしい。

 大勢の人に混じって、伊藤百合は一人、祈りを捧げていた。


 神様。私達はこれからどうなってしまうのでしょう?私は大学に行って図書館司書を目指します。

 でも、それだけでいいのでしょうか。

 修平は一生病院から出られないかもしれません。今は強力な親がついていますが、親がいなくなったらどうするのでしょう?私達二人は、どうやって一緒になればいいのでしょう。

 どうか見守ってください。お願いします。


「神は常に我々と共にあります」

 神父の声が聞こえる。

「その証として、我々にイエスをお遣わしくださったのです」

 イエス。人々の罪を背負う聖なるお方。私の罪も背負ってくださるのだろうか。修平が秋倉にいるうちに優しくできず、冷たい態度を取ってしまった。

 私は何もわかっていなかった。

 彼のことも、自分の心も。

 百合は祈り続けた。

 そのうち頭の中から言葉がなくなり、教会の静けさだけが体を満たした。これだけの人々が集まっているのに、何の音も聞こえなかった。百合は祭壇を見た。十字架、キリスト、神父、他には何もない。

 今、神が来てくださったのかもしれない。

 百合は思った。そして、また祈り始めた。将来に対する不安は、だいぶ消えていた。

 大丈夫。

 神の御心のままに、

 人を愛して進んでいけば──



「教会のミサに行ったよ」

 帰ってから、百合は修平にそうLINEした。

「俺も行きたかったな〜」

 と返ってきた。

「去年のこと覚えてる?」

 もちろん百合は覚えている。お互いに本を贈り合ったことを。

「ちょっと遅れるけどさ、俺からもプレゼント贈るから、受け取って」

「ほんと?ありがとう」

 百合は心から笑った。これでいい。こういうやりとりができるだけで幸せだ。これが神の恵みなのだ──


 クリスマスの夜は穏やかに、優しく過ぎていった。



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