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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.22 金曜日 高谷修平 病院

 修平は病院の廊下を歩けるようになった。近くの病室に似たような内臓の病気を持った子どもがいるので、ちょくちょく顔を出してゲームの話をしたりしていた。でも、その子が一番聞きたがったのは『学校ってどんなところ?』ということだった。秋倉高校で仲間達とふざけたやりとりをしたことを話しながら、たった二年足らずでも普通の学校に行けた自分の幸運を思った。

 病院には学校に通えない子どもがたくさんいる。そして、普通の子どもならできたであろう多くの体験を手に入れられないまま、病気で死ぬか、運が良ければ病室の中で大人になる。

 修平がそんなことを考えながら横になっていると、母ユエが、白い箱を抱えて入ってきた。

「あんたに荷物が来てるよ。彼女から」

 ユエはニヤニヤしながら、白い箱を修平に渡した。確かに、差出人は『伊藤百合』と書いてある。

 修平が箱を開けると、そこには、

 ジンジャーエール一本。

 秋倉レモン一缶。

 スライスされたシュトーレン。

 そして、リボンのかかった薄い箱が入っていた。

 封筒も入っていたので中を見ると、


『招待状

 あなたを23日のクリスマスパーティーに招待します。

 オンラインでご参加ください。

 同封した食品は当日の乾杯用です。

 先に食べちゃダメだからね。  伊藤百合』


 という文言と、日時などの説明が入っていた。

「ママさん」

 修平は目を輝かせた。

「俺、クリスマスパーティーに出席できるらしいよ!」

 招待状をユエに見せると、

「へえ、おもしろいじゃないか」

 と言った。

「でもな〜」

 修平はわざとらしくふんぞり返って言った。

「みんなは平岸ママのごちそうを食べられるんだもんな〜。俺はこのちっちゃくて黒っぽいケーキだけか〜」

「何をぜいたくなことを言ってんのさ」

 ユエが笑った。

「ごちそうが食いたきゃあたしがフライドチキンでも持ってきてやるよ」

「よろしくお願いしま〜す」

 修平は予想どおり動いてくれた母に感謝した。

 高条からはクリスマスツリーの飾り付けをしている男子どもの動画が送られてきた。ツリー用のモールでふざけていたホンナラ組。しかし、モールは本格的に二人にからまって取れなくなり、みんなでほどいてやっていた。

 いいな〜、俺もこんなふうにふざけたかったな〜、

 みんなと。

 修平は画面を見ながら思った。高条には『ホンナラ組って笑えるよね』というメッセージだけ送った。すると『あの二人で漫才すればいいのに』という返事が来た。その通りだと思った。

 修平はその日、パーティーに参加できる嬉しさと、現地にいることができない悲しさについてずっと考えていた。

 ふと、薄い、リボンのかかった箱が目に入った。

 これは今日開けてもいいだろう。

 修平はゆっくりリボンをほどき、箱を開けた。

 紺色の、革の手帳が入っていた。北海道のブランドのようだ。高そうだが、どうやって手に入れたのだろう?

 カードが同封されていた。


『これに、思ったことを書きつづってください。

 そして、たまに、内容を私に教えてください。

 百合』

 

 修平はしばらくそのカードを眺めた。そして、手帳に最初の言葉を書こうかと思ったが、それは明日にした方がいいと思い、手帳をベッドわきの机の上に置いた。そして、しばらく、その革の表紙を、枕元からじっと眺めていた。




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