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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.21 木曜日 研究所

 藤木とその父親が、ツリーを運んできた。奈良崎と保坂も一緒だ。大きなツリーは入口に入らないのではないかと久方は心配していたのだが、


 大丈夫。小さなパーツに分けて運べるやつだから!


 と佐加が言った。どうやら本物の木ではなくプラスチックのおもちゃだったようだ。久方は少しがっかりした。

 若者達は大きな作り物の枝を次々と運んできて、部屋の真ん中でツリーを組み立て始めた。


 あれ?ここ刺さんないんだけど。


 奈良崎が枝を振りながら言った。


 それはもっと上のパーツだべ。


 保坂がパーツを受け取って、脚立に乗っている藤木に渡した。藤木は木のてっぺんのあたりを担当していた。高い所なので久方は見ていてハラハラした。

 高条は作業しているみんなを動画に撮っていた。パーティーの準備から記録しておきたいらしい。

 佐加とヨギナミ、早紀が、箱からツリーの飾りを取り出して、これはかわいい、あれはきれいだとおしゃべりをしている。伊藤という女の子が、ツリーの組み立て説明書を見ながら何か指図している。


 久方さん。


 スマコンが妖しい笑い方をしながら近づいてきた。


 何か、隠しているものがあるのではなくて?


 久方は無言でキッチンに逃げた。そして、あのチョコレート像が入っている冷蔵庫をじっと見つめた。

 今日こそ早紀に話した方がいい。でも『自分を叩き壊してほしい』なんて言ったらどんな反応をされるだろう。『もったいない』とか言われたらどうしよう。


 所長、何してるんですか?


 わあっ!


 早紀がいきなり横に現れたので、久方は飛び上がった。


 そろそろツリーが完成しそうなので、飾り付けを手伝ってください。


 早紀はそう言って去ろうとしたが、


 ちょっと待って。


 久方は呼び止めた。


 見せたいものがあるんだ。まりえさんがチョコレート像を作ってくれたんだけど──


 久方は冷蔵庫を開け、隠していた箱を取り出した。そして少しためらってから蓋をあけた。そこにはあいかわらず、不気味なほど自分にそっくりな『チョコレートの久方創像』が入っていた。


 えっ?えーっ!?何ですかこれ!?


 早紀は驚いて大声を張り上げた。何事かと佐加や伊藤までキッチンに来てしまった。久方は真っ赤になりながら、


 パーティーの時、これを叩き壊してほしいんだ。

 これは僕の間違ったイメージだから。


 と言った。


 早紀は象を取り出して全身をくまなくながめた。久方は自分の全身をじろじろ見られているような気がして背中がぞわっとなった。

 それから早紀はニヤリと笑って、


 草原にたたずむ純粋な少年のイメージですね。

 町の人が持ってた所長のイメージ。


 と言った。


 やってくれる?


 と久方が言うと、


 所長、これは私じゃなくて、所長が自分で叩き壊すべきです!


 と早紀が言った。


 えっ?


 自分のイメージは自分で壊すんですよ!


 パーティーの予定表にも入れておくね。

 盛り上がりそ〜。


 佐加がニヤニヤしながら言い、伊藤も同じ笑いを浮かべていた。

 なんてことだ。言うんじゃなかった。

 こっそり始末しておけばよかった。

 しかしもう遅い。女の子達は『所長がチョコレート像を壊す行事』についてキャーキャー言いながら話し、ツリーの高い所にモールをかけていた藤木は『お前らしゃべってないで手伝え!』と言った。保坂と奈良崎はツリーの下のあたりにモールを巻き──ふざけてお互いにモールを巻きつけようとしたらからまって取れなくなってやはり藤木に怒られ、みんなが笑い、その騒ぎの全てを高条が動画に収めていた。

 久方は若い人達を遠くから眺め、自分はもしかしたらとんでもない間違いをしたのではないかと悩んでいた。

 こんなパリピどもに部屋を貸すなんて── 



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