2017.12.20 水曜日 ヨギナミ
学校帰り、佐加に『一緒にカフェに行こう』と誘われた。何か話したいことがありそうだなとヨギナミは思った。
松井カフェはいつもどおり営業していた。マスターの体調も戻り、店内にはラジオの音と町民のおしゃべりが満ちていた。
高条がカウンターにいる。
ヨギナミは話を聞かれたら嫌だなと思いながら、出窓の近くの席についた。ねこが『お前何?』と言いたげな目を二人に向けた。ここの猫はいつも女王様らしい。
うちさー、もうすぐ札幌に行くじゃん。
佐加はすぐに話し始めた。
辰巳は実家継ぐから、浜に残るじゃん。
離れ離れじゃん。
松井マスターが近寄ってきた。ヨギナミはコーヒーチケットが切れているのを思い出して慌てたが、佐加がさっと二枚出したので、松井マスターはそれを取ってカウンターに戻っていった。
うちもさ、戻ってこれるかわからない。専門学校卒業したらそのまま都会でファッションの仕事したいし。
そう考えたらさ、辰巳と一緒に暮らすのは無理じゃねって。
ずーっとそれ考えてて、昨日も眠れなかったさ。
でも、別れる気ないでしょ?
ヨギナミが言うと、
それは絶対イヤー!!!
佐加がものすごい大声で叫んだ。店内の客が驚いて一斉に二人を見た。佐加が『ごめん』とつぶやいた。マスターがコーヒーと、おまけのアイシングクッキーを持ってきた。よりによってハートの形をしていた。マスターは何を考えているのだろう?
だったら今のままでいいんじゃない?
ヨギナミは思ったことをそのまま言った。
遠距離恋愛してさ、たまに会いに行けばいいんじゃない?うまくいくかどうかはやってみなきゃわからないし。
それに藤木は100%浮気しないでしょ。
カウンターの高条が『男に100%はないよ』とつぶやいたが、ヨギナミは無視した。
それはうちもわかってんの。
佐加がハートのふちをかじりながら言った。
あいつは絶対浮気しないし、うち以外の女子を好きになることもない。あいつは揺るがないの。
うちだけ揺らいで迷ってんの。
そんな自分が許せないの!
また佐加の声が大きくなってきたので、ヨギナミは手で『静かに!』と合図した。
藤木だって悩んでると思うよ。
ヨギナミは言った。
でもいいね、そんなに思い合える人がいて。
そういえばヨギナミ、ホソマユにいつ告るの?
佐加が急に話題を変えた。
やっぱ卒業式?それともクリスマスパーティーにする?そっちの方がロマンチックっぽくね?
なんで急に元気になってんの!?
ヨギナミは笑ってから、
杉浦は私に興味ないよ。
と言った。
え〜?そんなことないと思うよ。長い付き合いだしさ〜。だいいち、ホソマユに女を選ぶ権利なんかないって。あの文学オタクに耐えられる子なんてヨギナミしかいないじゃ〜ん!
なんかすごく失礼なこと言ってない?
とにかくさ、卒業までに一回想いを伝えなよ。
佐加がヨギナミの手を握りながら優しく笑った。
結果はどうでもさ、その方がスッキリするって。
なんとなく最近悩んでいたことを察しているような顔だった。ヨギナミも笑って佐加の手を握り返した。
あ〜!
佐加が手足をバタバタさせた。
ヨギナミに会えなくなるの超さみしい〜!!
また大声だったので、店の客がみんな笑った。ヨギナミは顔を赤らめながらちらっとカウンターを見た。
高条と目が合った。
そのまましばらく、といっても数秒だが、二人は見つめ合ったままだった。
あそこにも恋に悩んでるやつがいる。ウヒヒ。
声がしたので佐加を見ると、意地悪なニヤケ笑いを浮かべていた。
ヨギナミは真っ赤な顔で、佐加の手を叩いた。




