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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.17 日曜日 サキの日記

 松井マスターの体調が悪くてカフェは休みらしい。

 こんなことはこの40年なかったと、町の人達が騒いでいるのだ。私も心配だ。でも、マスターの病気の心配というより、自分の行ける場所が少なくなることを心配している。この町で気軽に行ける店はあそことセコマくらいだから。

 私って冷たいのかな。


 研究所に行こうとしたらヨギナミが一緒についてきた。最近の杉浦のウザさについて一方的に話した。最近塾に行っても杉浦がやたらに人生論をしかけてくるので勉強にならない。ヨギナミは、


 杉浦も受験が近づいてストレスがたまってるのかもしれないね。


 と言った。それからなぜか、


 サキ、高条のことまだ好き?


 といきなり聞かれたので『もともと好きじゃなかった』と答えた。なんでそんなこと聞くの?と聞いたら、


 今、好きな人いる?


 と。たぶんまた『所長さんと付き合えばいいのに』とか言い出しそうだったから、きのう見た動画の話に変えてはぐらかした。


 所長はどこか(たぶんドイツだろう)から取り寄せた木製のクリスマス人形をカウンターに並べていた。かわいいので写真撮ってフェイスブックにあげた。ヨギナミにインスタやらないのって聞いたら『写真に写すようなことが私の人生にない』と言われた。所長が、


 草原を撮ればいいじゃないか。

 せっかく秋倉に住んでいるんだから。


 と言ったけど、ヨギナミは何も反応しなかった。生まれた時から秋倉に住んでいるから、この草原の景色も当たり前のものになってしまっているのかもしれない。でも、生まれた時から海辺に住んでいる佐加は、海に恋でもしているかのようにほぼ毎日海の写真を撮っているので、あの子のインスタは、自分で作った服と美しい海の写真でいっぱい。ヨギナミにはそういう感性があまりないのかもしれない。

 もしかして、お母さんの世話で苦労したせいで、感性を失ってるんだろうか。

 何でもいいから写真撮ったらいいよと言っておいた。よく平岸ママと料理したり花生けたりしてるじゃんって言ったら、


 それは平岸ママのものであって私が作ったわけじゃない。


 とか言う。誰が作ったっていいんだって!美しいと思ったら撮ればいいんだって!と言ってみたけど、ヨギナミは『でも……』とためらってる様子。真面目すぎるのかな。

 ポット君がコーヒーとビスケットを持ってきてくれた。休んでたら佐加から、


 でっかいクリスマスツリー貸してもらえることになった!

 3mくらいあるやつ!


 と来たので、所長が慌てて、


 置く場所を確保しないと。

 ソファーを動かした方がいいかな。


 と、テレビ前のテーブルとソファーを移動し始めた。天井は高いのでギリギリなんとかなりそうだけど、飾りつけが大変そうだと思った。

 それを佐加に言ったら、


 高いところは辰巳と奈良崎にやらせればいいよ。

 低い所はうちがやる。


 と。いいのか本当にそれで。

 パーティーの料理は平岸ママが作ってくれる。はりきられすぎて大量になるのではと心配している。所長が何か話したそうにしてたけど、結局何も言ってこなかった。たぶん私のことが好きだから、もうすぐいなくなってしまうのが悲しくて、それについて何か言いたいのだろう。

 私も所長と離れるのはさびしい。

 こんなに自分のことをわかってくれる人に初めて会ったから。

 でも私はもう大人になって、一人で行きていかなきゃいけない。



 夕食の時、あかねがまた妄想を爆発させた。


 クリスマスパーティーの準備をしていたら、美少年がうっかり転んで美青年に抱きついてしまうのよ。それがきっかけで二人は熱いキスを始め、そのままツリーの下で官能の世界に──


 それ、修平が聞いたら、『俺のクリスマスを汚すな!』って言うよ。


 と言っておいた。

 妄想には走るくせに、あかねはパーティーの準備を手伝う気はないらしい。原稿を書くのに忙しいとか、当日ママの料理運ぶのはどうせ私なんだからいいでしょ、と言う。

 ヨギナミは何も言わずに黙っている。朝からずっと何か考えているみたいだったけど、やっぱり杉浦なんだろうか。それとも佐加が言ってたように、勇気に好かれてるからそっちが気になってるとか?

 杉浦はやめておけと言いたい。

 勇気のことは、どうでもいい。

 今日勉強できなかったけど、別にいいか。




 

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