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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2016.11.25 研究所




 所長、今泣いてまセンでしたカ?



 新橋早紀が夜中にいきなりスマホにかけてきたと思ったら、いきなりこれだ。

 しかも当たっていた。

 隣の助手に気づかれないように必死で抑えていたところだった。昼間起きたことが衝撃的すぎた。自分が知らないうちに町の人間と話して、遊びに来るように誘っていたとは。しかもあのうるさい佐加を。佐加は平岸あかねと仲がいいから、このままでは町の人に何を言いふらされるかわかったものではない。

 今までも『別人』には人生を破壊されてきたが、しばらく出てきていなかった。自分がぼんやりしていて気がつかなかっただけかもしれないが。それが、最近になってまた現れ始めた。松井カフェのコーヒーチケットや、小銭が、いつの間にか減っている。何も食べた記憶がないのに胃が痛かったり、なにもしていないのにひどく疲れていたりする。おかげで自分が町に行きづらい。何をしているか全くわからない。

 なぜだろう?

 冬だからか?

 そういえば去年も冬に何度か意識がなくなった。

 助手は『大したことは起きてない』と言っていたが……。


 いくら早紀でもそんなことは知られたくない。

 遠くにいるはずなのになぜわかったのか?



 いや、寝てたけど、どうして?



 できるだけ平静に答えたが、声は変に上ずった。

 早紀にはたぶん隠せないだろう。

 今は良くても、いずれ見透かされる気がする。



 なんとなく、感じただけでス。



 久方は部屋を見回した。夏に来たときに盗聴器でもつけられたのかと思って。



 すみまセン。気のせいでシタ。



 全く抑揚のない、平坦な声が謝った。



 サキ君、眠れないんでしょ?



 夜になると考え事が活性化して眠れないと、前に言っていたのを思い出した。

 話を続けるにはいい口実だ。

 久方は誰かと話したかった。

 でも、それは大人の頼むことじゃない。できるだけ話を自然なほうに持っていきたい。



 さっき、枕元に女の人が立っていたような気がシタんでスけど、すぐ消えまシタ。

 家じゅうの電気つけて調べまシタけど、誰もいまセン。



 もっと抽象的な疑問が来るかと思ったが、意外と具体的だった。

 心配しなくても大丈夫と自分で言いながら、久方はどこかでわかっていた。問題だらけだと。

 何が大丈夫なんだ?子供が怯えてるのに親はどこに行ったんだ?

 こっちだって気が狂う一歩手前なのに、いつ自分が別人に乗っ取られるかわからないのに、

 僕は何をしてるんだ?



 うちのバカは、明日ラジオに出まスよ。全国だから所長も聴けると思いまス。



 久方は耳を疑った。何を宣伝してるんだこんな時に。

 呆れたが、こういう行動には自分にも覚えがある。もしかしたら『今泣いてましたか』も、話をするための言い訳で、たまたま自分が涙を流している時にそれが来ただけなのかもしれない。

 やはり早紀は、自分に似ている。



 サキ君。どうせ今日は眠れないから少し話そうか。



 久方は優しく言いながら、自分も同じくらい幼くてずるいと思った。

 声に気づいたのか、助手がドアをノックしてきた。

 久方はドアは開けずに『電話中だから!』と叫んだ。

 助手はなにやらぶつぶつ言いながら、部屋に戻っていった。




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