2017.12.14 木曜日 研究所
結城さんは札幌のジャズバーにいますよ。
遊びに来た保坂が言った。今日は奈良崎も一緒だ。
新橋には言わないでください。
サキ君は受験勉強が忙しくて最近ここに来ないよ。
久方が言った。保坂と奈良崎が妙な目配せをした。
全く連絡がないからどうしてるのかと思ってたけど、楽しくやってるみたいだね。あいつらしい。
結城さん、天才っすからね。
保坂が言った。
あのかっこよさって生まれつきなのかな?
奈良崎が言った。
生き様はただの遊び人だからね。
久方が暗い目で言った。結城は早紀の心をつかんだまま消えてしまった。早紀はまだ奴を忘れていない。それを思うと悲しくなる。
クリスマスパーティーなんだけど。
久方は話題を変えた。
ヨギナミが『ゲームがあった方がいい』って言っていたから、人生ゲームを何種類か買っておいたんだけど、それでいいかな。
いいんじゃないすか。盛り上がりそうだし。
わざわざ買ってくれたんですか?太っ腹!
奈良崎が嬉しそうに言った。
要は杉浦が演説するのを防げればいいんすよ。
保坂が言った。
みんな杉浦君を警戒してるなあ。
久方は言った。杉浦のことは気に入っているので、気の毒になっていた。
いやだって、あいつ暴走すると止まらないんすよ。
保坂が言った。
そうそう。いつだったかな。校長先生の話が気に入らなくて、マイクを奪って演説を始めたことがあるんすよ。ウヒヒ。
奈良崎が変な笑い声をあげた。
本当?
久方は驚いた。
あれいつだったっけ?
奈良崎が保坂に尋ねた。
1年の2学期。
あー!そうだそうだ!夏休み終わった時だ!
それから若者2人は杉浦の奇行についていろいろと語ったあと、『結城さんの部屋使わせてください』と言って2階へ行き、ギターとベースを鳴らし始めた。
ここで楽器の音を聴くのは久しぶりだなあと久方は思った。コーヒーをいれてソファーに座り、やや前衛的なギター演奏を聞きながら、近寄ってきたシュネーをなでた。かま猫は朝から見当たらない。こんな寒い時期にどこへ行ってしまったのだろう。ちゃんと帰ってくればいいが。
結城はもう、新しい人生を始めているんだな。
久方は思った。ここで奈々子さんの霊と会ったことで、過去のわだかまりも吹っ切れたのだろう。元々お調子者で明るい奴だ。きっと世の中をうまく渡っていくだろう。
自分ももう、次へ行かなくては。
久方は立ち上がり、パソコンに向かうと、神戸の友人にメールを送り、仕事に誘ってくれている仲間といくつか専門的なやりとりをした。
そのうち保坂と奈良崎は帰っていき、建物の中は静まりかえった。
サキ君がここにいたら──
またそんなことを考えそうになったが、
いや、だめだ。
振り払った。
早紀のことはもう忘れなくてはいけない。
あと2ヶ月経ったら。
しかし今の久方には、それができる自信がなかった。少し気を抜くとすぐに、あのかわいい面影を想ってしまうから──




