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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年12月

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2017.12.12 火曜日 ヨギナミ

 ヨギナミは寒空の下を歩き回っていた。雲がどんよりしていて今にも雪が降ってきそうだ。部屋で読書をしようと思っていたがなんとなく外に出たくなり、駅前通りまで歩いていった。そして、松井カフェの前で立ち止まって悩んでいた。

 松井マスターに会いたいが、高条がいるかもしれない。

 やめておいた方がいいだろうか。

 高条には会いたくない。なぜなら、変な気分になるからだ。なんとなく好意を持たれているような気がする。佐加も早紀もそう言っていた。でもヨギナミが好きなのは杉浦だ。だから関係ない。

 なのに、高条のことを考えると落ち着かない。


 あらナミちゃん。いらっしゃい。


 松井マスターがヨギナミに気づいてドアを開けた。仕方ないのでヨギナミは愛想笑いをして中に入り、カウンターの席についた。

 高条は反対側の奥にいた。パソコンに向かっていてヘッドホンをしている。まだこちらには気づいていないようだ。動画の編集でもしているのだろうか。

 遠巻きに見ると、かっこいいんだけどなあ。

 ヨギナミは思う。いつかクラスの女子達が『顔は高条が一番いい』と言っていたのを思い出す。でも、人を勝手に動画に撮っておもしろおかしく編集して笑いものにする(そして、その標的になるのはいつも杉浦だ)所がどうしても好きになれない。

 杉浦は今頃、早紀達と勉強しているだろう。

 早紀。おそらく杉浦が好きな『知的な女の子』は早紀のことだろう。たかだか2年ちょっと前に来たばかりなのに。自分は小さな頃から杉浦を見ていたのに。なぜ気づいてもらえないのだろう?

 いや、そんなことを考えても仕方ない。

 ヨギナミはバッグから『三四郎』を取り出して読み始めた。


 ねえ。


 高条が近づいてきた。


 そんなのわざわざ読まなくても、あらすじをまとめた動画があるんだけど。


 そういうのよくないよ。私はちゃんと読みたいの。


 ヨギナミは本から目を離さずに言った。至近距離で高条の顔を見るのは危険だ。かっこよすぎて引き込まれそうになるから。


 大して違わないって。さっき杉浦と『坊っちゃん』の話したんだけど、俺があらすじしか読んでないことに気づいてなかったもんあいつ。『君もまともな本を読むことがあるのだな』とか言っちゃってさ。


 杉浦をバカにしないで。


 ヨギナミは思わず振り向いて言ってしまった。高条の顔が目の前にあった。彼は『やった!』という感じにニヤッと笑った。ヨギナミはしまったと思って慌てて本に向き直ったが、顔が真っ赤だった。


 杉浦はやめた方がいいよマジで。


 高条の声が聞こえた。


 勇気、ちょっと来てくれる?


 松井マスターの呼ぶ声がした。気配が遠ざかっていった。

 ヨギナミはずっと本を見つめていたが、もはや内容は頭に入ってこなかった。




 夜。ヨギナミは杉浦に、『三四郎』を読んでいること、進んだところまでの感想を送ってみた。返事は来ない。それから、いつかおっさんが『行人』を勧めていたのを思い出し、そちらを手に取ってみた。どれも分厚い。一気に借りたのは無理があったか。伊藤ちゃんに貸し出しの延長を頼まないと。

 あれこれ考えようとしていたが、ヨギナミの頭にはさっきの高条の笑った顔がこびりついてしまってなかなか離れない。イケメンの威力は怖い。ちょっと笑っただけで人を魅了できるのだから。

 でも高条は軽薄だ。本は読まずにあらすじ動画で済まそうとするし、それをネタにして杉浦をからかったのはやはり許せない。

 杉浦と高条。まるで違う二人。

 ヨギナミは自分が何を考えているのかわからず、夜中遅くまで眠らずに悩み続けた。





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