2017.12.10 日曜日 研究所
ここ広いからさ〜、でっかいクリスマスツリー置いたらかっこよくね?
どっかでレンタルとかできないかな〜?
研究所。佐加がスマホを見ながらしゃべっている。早紀とヨギナミ、藤木、保坂、なぜか元カレの高条までいる。みんなクリスマスパーティーの打ち合わせに来たのだが、久方は一人落ち着きなくキッチンの方を見ていた。
所長、どうかしましたか?
早紀が尋ねた。
なんでもない。
冷蔵庫に入っている自分の像のことを、まだ言い出せずにいた。早紀ならわかってくれそうな気がするが、あんなものを若い人達に見せるのは恥ずかしい。どんな反応をされるかわかったものではないし。
レンタルって料金は誰が払うんだよ?
藤木が尋ねた。
みんなでちょっとずつ出せばいいじゃん。
佐加は気軽に言ったが、ヨギナミは不安そうな顔をした。お金のことを心配しているのかもしれない。
早紀は今日あまりしゃべらず、マグカップのコーヒーばかり見つめている。物憂げな様子がまた可愛い。久方は思わずじっと見てしまう。その様子を見て佐加と保坂がにやけていることには気づかない。
スマコンがクリスマスソング歌いたいって言ってるんすけど。
保坂がにやけたまま言うと、佐加が嫌そうな顔で『えー!?』と叫んだ。
あいつ絶対変な歌にするじゃん。
議員が不正する歌とか。
大丈夫。そこは俺がなんとかして普通のクリスマスソング歌わせるから。
別に政治の歌でもよくない?おもしろいし。
早紀がやっと口を開いた。
やだ〜!うちらの最後の思い出を政治の歌で彩られたくない〜!!
佐加が大声で言った。声が大きすぎて久方は少しのけぞった。
最後なんだよねえ。
ヨギナミがつぶやいた。
信じらんないよね。早すぎるよね。
もっと長いと思ってたのに。
佐加が早口で言った。
だからしっかりと記録しておかないと。
高条がスマホをみんなにぐるりと向けた。
今から撮る必要あるの?
久方が尋ねた。自分を撮られるのが嫌だったからだ。
だってこういうのは準備から記録しておいた方が、後で編集する時に盛り上がるんですよ。
高条が言った。それからヨギナミにスマホを向けて、
パーティーの案、何かありますか?
とおどけた声で尋ねた。ヨギナミがちょっと顔を赤らめたので久方は『おや?』と思った。この二人、何かあるのだろうか?
何かゲームをして時間つぶしたほうがいいと思います。じゃないと、杉浦が詩の朗読とか祝日の演説をしかねないので。
それな〜!
それそれ!!
佐加と保坂が同時に叫び、藤木が苦笑いでうなずいた。
でもゲームをしたらしたで、杉浦は悪ノリして暴走するような気がするんだけど。
早紀が言って、冷めたコーヒーを口に含んだ。久方はその口元をじっと見てから、自分の態度のあからさまさに気づいて慌てて目をそらした。
で、スマコンとケンカ始めるんだよな〜。
保坂が言った。
今日って奈良崎はどこ行ってんの?
佐加が尋ねた。
モデルのオーディションで札幌行ってる。
保坂が言った。それから、あいつ顔だけはいいもんねとか、伊藤ちゃんはクリスマスの礼拝があるから来れないかもとか、クラスの内輪の話が延々と続いた。
久方はそれを黙って聞きながら、自分は参加しなくてもいいのではないかと思い始めた。建物だけこの学生達に貸して、自分はどこかの店で一人で過ごした方がいいのでは──
久方がそんな考えの中にさまよい出した頃、何かに気づいたのか、早紀が、
所長も話に参加してくださ〜い!!
と言った。そして、ちょっとふてくされた顔で正面から久方を見た。
最高にかわいい。
ごめん、ぼーっとしてた。
久方は赤くなりながらそう言い、
何か、みんなでできそうなゲームを買っておこうか。人生ゲームとか。
と言った。本当はゲームなんかどうでもよくて、この、もうすぐいなくなってしまう愛しい女の子を何とか楽しませたいという、そういう思いだけだった。




