2017.12.8 金曜日 ヨギナミ
今日こそ、杉浦と話そう。
ヨギナミはそう思い、朝から緊張していた。最近、杉浦は受験勉強と塾の運営(一人で勝手にしゃべっているだけだが)に忙しく、ヨギナミはゆっくり話す機会がなかった。
杉浦。
昼休み、ヨギナミは思い切って杉浦に話しかけた。
時間ができたから本が読みたいんだけど、何かいいのないかな。
僕だったら夏目漱石の作品を全て読み直すね。
杉浦は目をくりくりさせながらそう言った。
受験が終わったらそうしようと思っていたのだよ。夏目漱石の作品には、近代以降の人間の苦悩というものが──
もっと明るい本の方がよくない?
高条が割って入ってきた。
ヨギナミはもう進路決まってんだから。それに、読書よりyoutubeの面白い動画を100個くらい見た方がいいよ。人と話す時に話題にできるし。
そして杉浦の方を見て、
今時夏目漱石の話で盛り上がる奴なんている?
と言ってしまったので、杉浦が怒って長々と反撃の演説をし、昼休みはそれで終わってしまった。
帰り、ヨギナミは伊藤ちゃんに頼んで、図書室にある夏目小説を大量に貸してもらった。
これ、全部読むの?
伊藤ちゃんが尋ねた。
本当に?
うん。ヒマだから。
ヨギナミは平然と本を受け取って図書室を出た。ずっしりとした本の重み。これを全部読んで理解したら──自分にも知性というものがあるとわかってもらえたら──杉浦も自分の方に振り向いてくれるかもしれない──




