2017.12.3 月曜日 ヨギナミ
ヨギナミは自分の家にいた。冬への備えをひととおりした後、この家が人手に渡ってもいいように中を丁寧に掃除した。
おっさんが手伝ってくれていたことを思い出す。
母がまだ生きていた頃。
母は見事に何もしない人だったので、家のことは全てヨギナミがやっていた。小学生の頃から、いや、もっと前から、食事は自分で作り、洗濯をし、掃除をし、家の周りの草や雪を始末してきた。
生活の全てが、自分にかかっていた。
生きていくだけで手一杯だった。
母が亡くなり、平岸家に生活を世話してもらえるようになって、ヨギナミの生活は一変した。急に何もしなくてもよくなったのだ。食事の用意も洗濯も、平岸ママが全部やってくれる(手伝おうとすると怒られる)。住む所は平岸パパが提供してくれるし、古い家の代金も肩代わりしてくれている。いつかの生活と比べると今は夢のように楽だ。
しかし、ヨギナミは困っていた。
やることがなくなってしまったからだ。
同級生達はもうすぐ受験なので、勉強に集中しなくてはいけない。今日も佐加と早紀は杉浦の家に集まっているだろう。
杉浦。
彼のことを考えるとヨギナミは苦しくなる。こんなに想っているのに、向こうは自分を女としては見てくれていない。しかも他に好きな人までいるらしい。
気を紛らわせるため、窓枠にたまったほこりと砂を丁寧に取り除き、家の窓をすべて拭いた。
さすがに疲れてしまったし、寒いので帰ることにした。平岸家にいられるのもあと4ヶ月くらいだ。もう少ししたら勤務する役場が決まるので、住むところも探さなくてはいけない。
新しい人生を始めよう。
杉浦のことは忘れよう。
そう思いながら冬のさびしい道を歩いていたが、心はなかなか初恋の人を諦めてくれない。
卒業式にダメもとで告白してみようか──
という考えが浮かぶ。でもそんなことはしない方がいいような気もする。
平岸家で夕食の席についても、ヨギナミの心は迷ったままだった。そんな彼女の心も知らず、あかねが最近始まったBLの人気シリーズの話を熱心にして、早紀が『修平がいたら逃げてるって』と言った。
そうだ、高谷は病気でまだ動けないんだった。
自分は健康で外を歩き回れるのだからまだマシだ。
ヨギナミは自分にそう言い聞かせながら、炊き込みご飯を飲み込んだ。




