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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年11月

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2017.11.24 金曜日 サキの日記

 久しぶりにあの感覚がした。世界で自分一人だけになったような、自分が世界全てになったような、私の他に何もなくなったような、あの感覚。

 朝の4時頃のことだった。眠れなくなったので起き上がってコーヒーを飲んだ。朝食の時間までまだずいぶんあるのでこれを書いてる。

 この感覚は何だろう?何のために存在しているのだろう?

 人類は生きるために進化している。だから、必要な能力だけが残っていくはずだ。この、一人のような、全世界のような感覚にも、何か生きるための意味があるのだろうか?

 人は古代からずっと『この世界とは何か』『自分とは何か』『幸福とは何か』みたいなことを考え続けていた。なぜそれができるか。そのように進化したから、つまり、それが『必要』だったからだ。だから人間にはそういうことを考える能力が身についているのだ。獲物を捕らえたり畑を耕したりものを作ったりする能力と同じように、この世界をとらえる能力、自分というものを定義する能力も、『必要だから』発達したのだ──


 みたいなことをずっと考えていたらいつの間にか時間が過ぎていたらしく、あかねの、『朝ごはん食べないの!?』という怒鳴り声で我に返った。


 学校では佐加がホンナラ組に協力させて、ブルゾンちえみのマネをしていた。似合いすぎてめっちゃウケる。

 学校へ行くといろいろな人がいろいろな情報を持ってくる。私は一人ではなくなる代わりに、世界のほんの一部をかいま見る。目に見え、耳に聞こえる範囲の世界を。あの、すべてと一つになったような感覚とはずいぶん違う。

 昼休みにみんなにその話してみたけど、やっぱり何のことだかよくわからなかったらしくて、すぐ別な話題に変わってしまった。

 トイレで手を洗っていたら、スマコンがそーっと近づいてきて、


 わたくしも、同じように感じること、あるのよ。


 と言った。そして、そーっと去っていった。

 帰りに話しかけようと思ったんだけど、よくわからない漢文の解釈で杉浦と言い合っていたので近寄れず、今日は塾にも行きたくなかったので研究所に行った。

 所長と、まりえさんが紅茶を飲んでいた。

 なんとなくいい雰囲気だったので、コーヒーだけ飲んですぐ帰ってきた。本当は所長とあの不思議な感覚の話をしたかったのに。

 しかたないので平岸家に帰って、平岸ママのモンブランを食べながら、スマコンに『さっきの話、詳しく』とLINEした。すると、


 わたくしも、宇宙とつながっている感覚に浸ることがあるのよ。

 そういう時は、全ての感覚が一つになって、

 全てが一つになったような気がするものよ。


 という返事が来た。


 実際、世界のものは全て一つなのよ。

 わたくしたちが忘れているだけでね。


 なんかスピリチュアルな話にされそうだったのでそれ以上はやりとりしなかった。スマコンが感じた宇宙と、私が感じたものは同じだろうか?それとも、似て非なるものなのか。

 部屋に戻ってから、いつか読んだティク・ナット・ハンの瞑想を思い出し、ベッドに横になりながら深呼吸した。またあの感覚が戻ってこないかと思って。でも、私はいつのまにか眠っちゃったらしく、あかねの『夕飯食べないの!?』というすさまじい声で飛び起きた。

 そして夕食後も落ち着かず考えてる。

 私は今日一日何をしてたんだろう。受験生なのに。

 でもいつかあの感覚が何なのか知りたい。

 それを文章にしたい。






 

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