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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年11月

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2017.11.18 土曜日 サキの日記

 気になる。今日はヨギナミと勇気が来てなかった、杉浦塾に。

 佐加が午後から来て『おっさんが拾った石』というどうでもいいものを見せびらかしてくるし、保坂が有名な塾講師の世界史の授業をみんなに見せてたんだけど、杉浦が『教え方が気に入らない』と言っていろいろディスったあげくロシア帝国の演説を始めてしまった。全く興味ないのでうなずくフリしながら半分寝てた。

 昼に松井カフェに行ったらカウンターで勇気がスマホ見てた。何してんのって聞いたら『動画の編集』。何撮ったのって聞いたら『別に』。まさかヨギナミを撮ってるんじゃないだろうな。気になる。

 午後は藤木が杉浦を別な部屋に連れてってくれたので、うちらだけでスムーズに有名講師の数学の授業見れた。苦手な私でもわかった気になれたから教え方上手い先生なんだろう。藤木は杉浦の部屋で、名前の難しい古い作家の話を延々と聞かされたらしい。かわいそうなのでコーヒーチケットを1枚あげたらめっちゃ喜ばれた。藤木でもはしゃぐことあるんだって思うくらい喜んでた。

 つまり、今日は私も受験生らしくずっとお勉強してたわけだ。

 でも、ちょっと集中が途切れると、すぐ考え事が始まってしまって、三分の一くらいは別なことを考えてたように思う。

 

 奈々子はなぜ、私の前に現れたのだろう?


 初島のせいではあるけど、もしかしたら、私と母を仲直りさせるために出てきたんじゃないかとか、私を成長させるためにわざと恋のライバルとして出てきたんじゃないかとか、そんなことを考えてしまう。彼女はもう消えてしまったけれど。

 私はたぶん、奈々子が存在していたことに何か意味を見つけたいのだ。

 人一人の存在を、無意味にしたくないのだ。

 所長もまだ一日の半分は橋本のことを考えているらしい。所長の場合、人生の大半を乗っ取られていたから、影響が大きかったんだろう。

 でも私達は、前を向かなければいけない。


 大学の友達が、

 一緒に仕事しないかって誘ってくれてるんだよ。


 所長とLINEしたらそう言っていた。


 ありがたい話だけど、実家の商売も手伝いたいから迷ってるんだ。


 私は『後悔しない方をゆっくり選べばいいですよ』と偉そうなアドバイスをする。そして、今日起こったこと、みんなが話していたこと、印象に残ったことなどをノートに書き込んでおく。それから、昼間勉強したからもう小説書いてもいいやと思って、秋倉高校に来た頃のことを思い出してる。

 みんな優しかったな。

 意地悪な人が一人もいなくて(あかねのオタクぶりと、佐加のテンションの高さには戸惑ったけど)、みんな向こうから話しかけたり気を遣ったりしてくれた。私は多分、自分からはあまり動いていない。みんなが働きかけてくれたから仲良くなれた。

 今思うと私は甘えていたかもしれない。もっと自分から動くべきだった。でも、今こうやって毎日バカみたいなことができてる。ありがたい。

 修平、かわいそうだな。ここにいられないなんて。

 伊藤ちゃんとはやり取りしてるらしいけど、私には連絡がない。やっぱり新道のことを思い出したりしてるんだろうか。

 気になってLINEしてみたら、


 先生のことは毎日思い出してるよ。

 朝起きるたびに『おはよー』って声に出してさ、

 あ、もういなかったんだって気づく。


 と来た。やっぱり、なかなか忘れられないんだな。

 私は黒猫の杖をクローゼットにしまった。見ていると奈々子を思い出してしまうから。よく怒ってこれで殴りかかってたっけ。今思うと、あの時もっと冷静に話を聞いてたらよかったと思う。

 奈々子は私をずっと見ていた。

 誰よりも私を知っていた。



 母とのインタビューを見た人から毎日いろんなコメントが届く。でも、意外なことに『似てない』とか『ブス』と言ってくる人はほとんどいなかった。

 多かったのは、目元は母に似ていて、話し方は父に似ているという意見だ。おバカに似ているなんて問題だ、もっとちゃんとした話し方ができるようにしなくては。母にそう言ったら、


 サキちゃんらしくていいじゃない。

 直しちゃダメよ。


 と言われたけど。

 今度話し方の本を伊藤ちゃんに選んでもらおう。




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