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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年11月

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2017.11.16 木曜日 サキの日記

 初島緑とは何者だったのだろう?

 あの日からけっこう経ったので、そろそろ話題にしてもいいんじゃないかと思って所長に聞いてみた。


 あれは、僕が自分で創り出した幻だったんじゃないかな。


 と所長は言う。


 過去が創り出した幻想。モノクロの森も同じ。だから、僕があの人を許した時、消えていった。


 あの、白黒の世界に色が広がった瞬間。

 所長が初島を『許した』瞬間。


 でも、今初島はどこにいるんでしょうね?


 テレビ局で私を襲った後、姿を消してしまった。


 それはわからない。

 正直言って、もう、どうでもいいんだよ。

 あの人はあの人の人生を、僕は僕の人生を生きる。

 それだけ。


 私達は一緒に草原を歩いた。雪がところどころにまだらに積もっていた。溶けている所には熱があるんだろう。木のまわりだけうっすらと丸く雪が溶けているのを見ると、物言わぬ木にもエネルギーがあるのだとわかる。

 所長は時間をかけて、木々や草や雪を見て回っていた。リスのような生き物が横切ったので、二人で後を追ったけど見つからなかった。寒さに耐えられなくなるまでずっとそうやって過ごして、すっかり凍えてから研究所に戻ってホットチョコレートを飲みながら、ウクレレやチクセントミハイの話をした。

 幽霊問題から、過去から開放された私達には、

『今、やること』が必要だった。

 そうしないと、何もしないでぼーっとしてたら、過ぎ去ったはずの過去がまた記憶からよみがえってきて、今という時間を侵食し始めるからだ。過去は過ぎ去ってもう存在していない。でも、一度起きたことはなかなか記憶から消えない。

 過去に今を壊されないようにするためには、

 今、夢中になってやれることが必要だ。

 だから所長はウクレレを始めた。私は受験生だから勉強しなきゃいけないし、小説も書き始めた。しばらくやることには困らずに生きられるだろう。

 しかし、初島はどこに行ったんだろう?

 人間の悪や弱さを体現したような存在だったけど、本当に消えたんだろうか?それとも、心を入れ替えて(あるいは、入れ替えずに)まだどこかで生きているのか。

 でもきっと、もう私達には関係ないのだろう。

 今日もBBCを聴こう。それから、久しぶりに数学やろう。受験まで二ヶ月くらいしかないのにわかんなすぎてヤバいし。





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