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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年11月

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2017.11.15 水曜日 研究所

 久方創はソファーでくつろぐかま猫とシュネーを見ながら、今後この子達をどうしようかと案じていた。もちろん神戸に連れて行くつもりだが、猫は環境の変化に敏感だ。特にかま猫は、このだだっ広い草原を走り回るのに慣れてしまっている。神戸の狭い家で満足できるのだろうか。


 猫にリードつけて、犬みたいに散歩してる動画を見ましたよ。

 かま猫ならできそうじゃないですか?


 午後に来た早紀が言った。しかし久方は『猫にリード』という考えがどうも好きになれなかった。そんなの猫じゃないとすら思ってしまった。猫は自由だから猫なのだ。紐でつなぐものではない。少なくとも久方にとっては。


 所長、ウクレレ弾くんですか?


 カウンターに置いてあるウクレレを見て早紀が言った。


 最近始めたんだよ。本当はギターがやりたかったけど、僕は手が小さくて無理だから、ウクレレなら大丈夫かと思って。

 それに、何かやることがないと、余計なことを考えてしまうしね。


 そうですか。私最近チクセントミハイの『フロー体験入門』を読み直してるんですけど、『自由時間は仕事よりも楽しむのが難しい』って書いてあるんですよ。目標や接する人がない状態になると人はモチベーションや集中を失う、そしてフローに入りにくくなる。


 わかる気がするよ。

 暇だとろくなことを思い出さないからね。


 みんな田舎暮らしはいいものだと思ってるけど、それは『やること』と『交流する人』がいてこそですよね。ただ暇なだけで、行く所もやることもないと、悪いことばかり考えますよね。


『どうして僕はこんなにダメなんだ』みたいなね。


 私も秋倉に来る前は『自分が生まれてきたのは何かの間違いでは?』とか考えてました。自分の過去から逃げるようにこっちに来たけど、やっぱり自分は自分だから、ネガティブな考えクセも一緒に追いかけてきて、せっかく平和な田舎にいるのに過去を思い出して怖がったりしてしまった。


 それは僕も同じだ。


 だから、田舎だからとか都会だからじゃないんですよね。『自分がどう考えてどう行動するか』なんですよね。

 でも私、こっちに来て成長しましたよ。

 もう『間違って生まれてきた』なんて思ってないです。

 いつの間にかそんな考え忘れてました。


 早紀はそう言ってニコッと笑った。初めて出会った頃に比べるとかなり大人らしくなっていた。でも、まだあどけなさも残っていて──


 この子が成長するのをずっと見ていたい。


 久方はそう思っていた。でもそれはできないのだ。3月には離ればなれになるのだから。






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