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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.22 研究所


 助手の結城は、風変わりな同居人に手を焼いていた。

 問題を起こすからではない。逆に、なにもしないからだ。

 必要な事しか話さない人間はどこにでもいる。

 しかし、久方創は、必要なことすらまともに話さない。

 そんな無口な久方は、最近、前よりはよく話すようになってきた。

 ただし、全て同じ出だしから始まるのだが。



 サキ君がさあ……。



 うわ来た!

 助手がそう漏らすと、久方は一瞬嫌そうな顔で助手を睨んだが、すぐ窓の外に目を戻した。

 最近、外出したがらず、一日中窓を眺めて過ごしている。




 サキ君、自分が寂しがってることに気づいてないんじゃないかな。自分がしっかりしなきゃいけないと思い込んでる。話を聞いてると、子供が親の話をしてるはずなのに、逆に親が手のかかる子供の話をしてるように聞こえる。子供っぽいのに、無理して大人になろうとしてるような。



 助手は半笑いで口元を歪ませた。



 それはサキ君じゃなくてお前の話じゃないの?

 自分が寂しいんだろ。



 久方は反応しない。無視だ。窓の外を見たまま動かない。



 まあ、いいけどね。



 助手は二階に戻ることにした。ピアノを弾く以外にやることはないし、いくら別人が現れるからといって、四六時中一緒にいたのではストレスが増える一方だ。

 しかし久方は、いつまでこんな生活をするつもりなのだろう。いつまで自分のことを隠し続けるのだろう。こんな田舎にこもらなくても、ちゃんとまわりに説明して理解されれば、都会である程度普通に暮らせるのではないだろうか?理解されるのが難しい状態なのは確かだが、今の久方は、最初から人に理解されることを諦めているように見える。空や雲や、忌々しい虫にしか興味を示さない。



 まあ、サキだかガキだか知らないが、人間と話すようになっただけ、まだましかな。



 助手はいつもどおりピアノに向かった。

 黒鍵。



 全く、あいつを見ているとまさにこんな感じだ、勝手に小躍りしてろって!



 演奏にも思考が反映されたのか、軽い音運びが自分で聞いていても嫌みに思えた。

 ただし、助手は久方がああいう人間になった理由を知ってるので、あまりきつく指摘することはできない。

 それでも、ああまで頑なに動こうとしないのは何故なのだろう。

 曲は荒々しいピアノソナタに移り、徐々に演奏が乱暴になってくる。



 一階では久方が、いつも通り窓辺で空を見ている。前にどこかで読んだ話を思い出しながら。



 何もかもが平和に、うまく動いている町で、みんなが幸せに暮らしている。

 しかしその平和は、ある一人の子供が、暗い地下牢に繋がれるという犠牲によって成り立っているのだ。



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