3.STRINGS
今はあの頭痛も、何事もなかったかのようにすっかりひいていた。
痛みもひいて落ち着いたところで、記憶のぶり返しが起こった。
前回の、死ぬ直前のフラッシュバックだ。
あいつの顔が悲痛に歪んで、何かを叫んでいる。
その事を思い出して、胸が締め付けられ、泣きたい様な、笑いたい様な発作的な衝動に駆られた。
そして思いっきり声を出して泣いた。
今はどこからどう見ても、ただの赤子にみえるだろう。
だから今は、泣いていたかった。
思いっきり泣いてすっきりしたら、一歩前に進めるような気がした。
だから泣く。
今のこの姿に少しだけ感謝した。
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先ほどまで向こうにいた人影が近づいてきた。
泣き声を聞きつけたからだろう。
近づいたかと思うと、急に天井が近くなった。
どうやら、近づいてきた人に抱き上げられたらしい。
「あら?お腹がすいたのかしら??」
いやいやいやいや、ちょっと待って、それはストップ。
奥さんストーっぷ、話を聞いてくれ。
心の準備というものがありましてですね、もしもーし、もし…×%おrld
赤子の言葉など当然解するわけがなく、御約束の羞恥プレイが始まった。
ある意味、記憶とびますよ、本当に。
まぁ、生存本能が羞恥を上回るからましと言えばましだが。
何が起こったのかは想像にお任せするとして、どうせなら記憶は、離乳食の時期になってから戻ってほしかったなぁと個人的に思ってみたりする。
が、こればかりは仕方がない。
さっきまでシリアス全開で泣いていたのに、今はだいぶ気分が楽になっていた。
満腹状態になると人は、一時的に浮上できるらしい。
精神的にかなりダメージを受けてはいるが…
恐るべし授乳効果。
そしてその時を境に、何の拷問?と思わずにはいられない、いたたまれない通過儀礼の数々が始まった。
とにかく、思い出すのも恥ずかしい、あれやこれやをやられるわけで。
だが、これも生きるため、仕方がないのだと諦める。
…諦めるのだが、なんだかなぁ。
まぁ、どの人生においても、諦めと我慢というものは、共通に付いて回るものである。
うん、今回も例外ではない。
で、悟ったような事を言っているが、今の姿は誰がどう見ても、どこにでもいそうなただの赤子である。
中身が大人なだけで。
そう自分は少し、いやかなり問題を抱えている。
それは、記憶を持ったまま生まれてしまっている事だ。
前回の人生だけでなく、前々回の人生も例外なく記憶を持って生まれている。
乱暴な言い方をすれば、今までの生きてきた人生全ての記憶を持っているという事になる。
本来人は生まれる時は記憶ごとゴッソリ抜け落ちるはずなのだ。
が、自分の場合はそうではない。
これは明らかに人間として異常なこと事で、本来起こりえない事なのだ。
中には記憶ならあるぞという人物も探せばいるだろうが、それでも思い出すのはせいぜい数代前が限度といえる。
だが、自分には幾重にも重ねられた記憶を忘れる事もなく持ち続けている。
なぜそうなったかは、長年生きてきたがさっぱり解らない。
解ろうとも思わないが。
ただ、忘れる事ができないというのが何とも辛いところだ。
何代もの記憶が積み重なって、時々夢か現実か判らなくなって困るのだ。
しかも、生まれた時の時系列はいつもバラバラで。
何も考えずにうっかり知識を披露しようものなら、宗教裁判に問答無用でかけられ、火あぶりでチョンってこともある。
火あぶりは軽くトラウマになるから要注意だ。
まぁ、ともかく、記憶を持ったまま、死んでは生まれを繰り返し、今に至っている。
とにかく自分はそういう体質の持ち主だった。
そうして、さまざまな記憶を持ったまま新たな人生をまたスタートさせる。
"目立たず地味に"を人生のキーワードにして。